研究領域 | 重い電子系の形成と秩序化 |
研究課題/領域番号 |
23102708
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
求 幸年 東京大学, 大学院・工学系研究科, 准教授 (40323274)
|
キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / 計算物理 / 磁性 / 低温物理 |
研究概要 |
近藤格子系における電荷とスピンの自由度の相関に起因した興味深い現象のひとつとして、電荷秩序の発現可能性とそれがもたらす物性を解明する目的で理論的研究を行った。そのために、2次元正方格子上の近藤格子模型の1/4フィリングに着目して研究を進めた。まず、基底状態を明らかにする目的で、変分モンテカルロ法による数値計算を行った。計算においては、近年開発された多変数変分モンテカルロ法を用い、境界条件まで含めて有限サイズ効果を慎重に検討することにより、熱力学的極限における振舞いを調べた。その結果、近藤カップリングの中間領域において、電荷秩序が現れることを見出した。またこの電荷秩序が、電荷密度の低いサイトに磁気モーメントをもった反強磁性秩序を伴うことも明らかにした。次に、有限温度の性質を調べるために、クラスター動的平均場法による解析を行なった。有効不純物問題のソルバーとしては、近年開発された連続時間モンテカルロ法を用いた。その結果、変分モンテカルロ法の結果と同様に、近藤カップリングの中間領域で電荷秩序相が現れ、さらに低温で反強磁性秩序が発達する様子を明らかにした。また、化学ポテンシャルの計算結果から、この反強磁性を伴った電荷秩序状態が絶縁体であることを示した。さらに、近藤カップリングが強磁性的な領域においても計算を行い、強磁性領域では電荷秩序が安定化しにくいことも見出した。この結果から、この電荷秩序状態の形成において、近藤スピン一重項が重要な役割を果たしていることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実施計画では、変分モンテカルロ法による1/4フィリング状態の計算を目標に掲げていたが、実際には、変分モンテカルロ法による基底状態の計算のみならず、クラスター動的平均場法を用いた有限温度の性質まで実行出来た。これらにより、当初の計画を大きく上回る成果として、近藤カップリングと温度に対する相図の全体像、電荷秩序相の発現、電荷秩序相の磁気的性質や電子状態に関する新しい知見が包括的に得られたから。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究の進展により、2次元系でも1/4フィリングにおいて電荷秩序相が現れることが明らかになったと考えている。そこで今年度は、それら研究成果をとりまとめて広く発表するとともに、近藤カップリングによるスピン一重項形成と電子の運動に起因した電荷秩序の特徴を理論的に解明することを目標とする。特に、磁場やキャリアドーピングに対する応答を計算し、通常の電子間斥力による電荷秩序状態との違いを浮き彫りにする。また、電荷秩序相近傍に現れる金属状態にも着目し、金属絶縁体転移に絡んだ異常な性質を明らかにする。
|