研究領域 | 重い電子系の形成と秩序化 |
研究課題/領域番号 |
23102712
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
大原 繁男 名古屋工業大学, 工学研究科, 教授 (60262953)
|
キーワード | 強相関電子系 / Yb化合物 / フェルミオロジー / サイクロトロン有効質量 / 光電子分光 / 重い電子系超伝導 |
研究概要 |
新物質である重い電子系反強磁性体YbNi_3Al_9および価数揺動物質YbNi3Gagについて、単結晶育成に成功した。X線構造解析から三方晶ErNi_3Al_9型構造をもつこと、また、c軸方向にYbNi_3Al_9では3倍周期の超格子構造を持つこと、YbNi_3Ga_9では何らかの積層欠陥を持つ可能性がわかり、測定と解析を続けている。参照物質であるLu化合物と合わせて、4種の試料についてde Haas-van Alphen効果を測定し、YbNi_3Ga_9以外は、フェルミ面構造が似ていることがわかった。これはYbあるいはLuが同じ+3価であることを示す。また、 YbNi_3Al_9およびYbNi_3Ga_9ではサイクロトロン有効質量の増大が観測され、重い電子状態を形成している。データ整理とバンド計算との比較を進め、YbNi_3Al_9とYbNi_3Ga_9のフェルミ面の違いを調べている。価電子帯光電子分光からは、YbNi_3Al_9においてYbの価数が+3価であること、YbNi_3Ga_9の価数が約+2.5価であることがわかり、YbNi_3Ga_9において温度の低下に伴う近藤ピークの成長を観測した。近藤ピークから近藤温度は約600Kとなり、磁化率などから見積もられた近藤温度と一致した。 YbNi_3Al_9およびYbNi_3Ga_9の基底状態の調節として圧力効果と置換効果の測定を進め、YbNi_3Al_9の反強磁性が約4GPaで強磁性に転移すること、YbNi_3Ga_9の中間原子価状態は圧力約9GPaで強磁性に転じる事がわかった。置換効果としては、YbNi_3Al_9とYbNi_3Ga_9の混晶の育成により近藤温度が調節できることがわかった。 近藤格子系Yb化合物の良質な単結晶を合成できることはまれであり、参照物質も含め、電子状態の違いを明らかとする上で、Yb化合物の研究において重要な物質を見いだしたといえる。また、その基底状態が圧力により調節できたことは極めて意義があり、今後、磁気揺らぎによる超伝導が見いだされれば、Yb化合物において世界初となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した計画通りに進行しており、重い電子系反強磁性体YbNi_3Al_9および価数揺動物質YbNi_3Ga_9の電子状態の直接観察に成功している。またその基底状態の圧力変化についても先行して実験を進めることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は圧力効果を主に推進する計画であったが、価数揺動物質YbNi_3Ga_9の転移圧力が約9GPaと高いことがわかり、簡便な圧力装置では到達できない。そこで、元素置換による基底状態変化を利用した研究を進めている。すでに置換試料の育成と光電子分光測定を試行し、基底状態を調整できることがわかった。反強磁性秩序状態から価数揺動状態までYb化合物における電子状態の変化とYb化合物において重い電子状態の発現条件について知見を得る。
|