公募研究
本研究では、重い電子系化合物のURu2Si2の「隠れた秩序」相における電子状態の研究を行っている。本年度の成果どして、磁場中の20-60GHz帯マイクロ波吸収測定においてサイクロトロン共鳴を観測し、26年間の謎であった「隠れた秩序」相のフェルミ面の主な構造の同定に成功した。ここで明らかになったのは、最も信号の強い共鳴を与えるαバンドとよばれるホール面で、バンド計算や量子振動の測定からは明らかにされていなかった有効質量の分裂を発見し、[110]方向にホットスポットを持つことを強く示唆する結果を得た。この結果は、「隠れた秩序」相において正方晶の面内4回対称性崇破る電子構造となっていることを示しており、以前我々がトルク測定により提唱した電子ネマティック状態となっている.ことをフェルミ面の異方性としてとらえたものであると考えられる。これにより、「隠れた秩序」の対称性が面内4回対称性を破るものに絞られ、理解が格段に進むことが期待される。現在この結果を論文にまとめ、投稿中である。次に、新しいマイクロ波測定装置として、誘電体であるルチルを用いた5GHz帯の共振器を設計・作製した。サイクロトロン共鳴磁場は周波数に比例するため、より低い周波数を使うことで重いバンドの存在の有無を低磁場で調べることができる。現在まで、ゼロ磁場の測定が可能になっており、鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2の超伝導状態における磁場侵入長測定を行った。特に、10^6を超す高いQ値と、低温において試料の引き抜きを可能にしたことにより、今までは困難であった磁場侵入長の絶対値の見積もりを高い精度で行うことができるようになった。様々なP置換量のBaFe2(As,P)2単結晶試料での磁場侵入長の絶対値測定を行った結果、低置換量で現れる反強磁性秩序が完全に抑制される30%置換付近において、絶対零度における磁場侵入長の値が鋭いピーク構造を持つことを明らかにした。この結果は、超伝導ドームの内部の絶対零度において臨界的な揺らぎが存在していることを実験的にはじめて直接示したものであり、反強磁性量子臨界点が超伝導状態内に存在することを示すものである。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の目的であったURu2Si2の隠れた秩序相の主な電子状態を決定できたとともに、新たに回転対称性を破るホットスポットの存在というこの相に特徴的な物性を明らかにすることができた。このような電子状態は今までの測定方法では明らかになっておらす、本研究の成果により、新たな研究の展開へとつながると期待される。
重い電子系化合物URu2Si2の隠れた秩序相内で発現する超伝導状態における面内異方性測定を行うことにより、その超伝導対称性を明らかにし、その結果から常伝導状態に相当する隠れた秩序相の電子状態の対称性が回転対称性を破るものであるかどうかの再確認を行う。ネマティック秩序化での超伝導という新たな問題に対して新しい切り口での研究の展開を図る予定である。
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