研究概要 |
本研究を通して、以下を明らかにした。 1)YbRh_2Zn_<20>の圧力誘起スーパーヘビーフェルミオン状態 重い電子系物質YbT_2Zn_<20>(T: Co,Rh,Ir)は大きな電子の有効質量と重い電子系特有のメタ磁性を示し,その電子状態は量子臨界点近傍にある.圧力下における研究から,YbRh_2Zn_<20>は5.2GPaで量子臨界点に達し電子比熱係数が通常金属の約2万倍の20J/(K^2・mol)にも達するスーパーヘビーともいえる電子状態になることがわかった. 2)YbCo_2Zn_<20>の磁場誘起反強四極子相と圧力誘起反強磁性との競合関係 YbCo_2Zn_<20>では重い電子によるメタ磁性の他に磁場誘起による反強四極子秩序(FIOP)相が見いだされた.つまり4f電子の「遍歴的」な性質である重い電子状態と「局在的」な性質である反強四極子秩序が同時に発生する.さらに圧力下では圧力誘起の「局在的」な反強磁性が加わり,複数の秩序変数が絡んだ電子状態を生み出すことがわかった. 3)YbCu_2Ge_2の圧力下での重い電子状態への移りかわり Ybの価数が2価に近いYbCu_2Ge_2では圧力でYbの価数を2価から3価に制御することで,価数揺動状態,(磁気,価数)量子臨界点,磁気秩序相と基底状態が連続的に移り変わることが期待できる.現在約20GPaまでの測定を行っており,圧力下で明らかにYbの3価の成分が顔を出していることが分かってきた.この圧力では有効質量が常圧に比べて,1桁程度大きくなり,重い電子状態を形成しはじめていることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の点に着目して、Yb、Ce化合物で発現する重い電子状態の解明と新物質探索を進めて行きたい。 1)YbCo2Zn20の価数揺らぎ,磁場誘起秩序相の微視的研究 YbCo2Zn20の重い電子状態に価数ゆらぎの兆候があることがわかってきた。核磁気共鳴測定で価数の状態を直接反映する核四重極共鳴周波数を極低温で調べ、微視的見地から価数ゆらぎの存在を明らかにする。また、本研究で見つかったYbCo2Zn20の磁場誘起反強四極子秩序相について明らかにするため中性子散乱実験を行う。 2)Yb化合物における量子臨界点、世界初のYb系圧力誘起超伝導の探索 YbCu2Ge2のYbの価数が2価から3価へと少し近づき有効質量が増加することがわかった。超高圧力発生技術を駆使して,価数と磁気揺らぎによる重い電子状態の形成過程を解明し,量子臨界点近傍で期待される超伝導の探索を行う。 3)価数ゆらぎを媒介とした新量子臨界現象の理論の確立と実験的検証 数十年の間希土類化合物が示す多彩な電子物性は磁気モーメント間の相互作用や磁気的な揺らぎにより引き起こされるといういわゆるドニアックの相図に基づいて説明されてきた。一方でCeTIn5の超伝導やYbCo2Zn20の重い電子状態などで新たな軸である「価数」のゆらぎが重要であると思える現象が次々と観測されている。価数のゆらぎが生み出す新しい物理現象を探索し、ドニアックの相図を超える新しい量子臨界理論の検証を行う。
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