研究概要 |
近年,カゴ状結晶構造をもつ化合物において,特異な超伝導状態や多彩な多極子物性,カゴ中の原子のラットリング振動などの,磁性とフォノン物性が融合した現象が注目されている。本研究では,4f電子を2個もつPrイオンを含む立方晶化合物PrT_2Zn_20(T:遷移金属)における超伝導や構造相転移,重い電子状態に着目し,試料作製を主な手段としてこれら多彩な物性について研究を行ってきた。本年度は新規物質であるPrRh_2Zn_20の試料作製を行い,純良な単結晶を得ることができた。0.1K以下までの極低温領域における比熱の測定において,T_Q=0.06Kで明瞭なピークを観測した。比熱から求めたT_Qでのエントロピーは,結晶場基底状態である非磁性二重項から期待されるRln2の10%程度であることから,T_Qでの比熱のピークは多極子自由度による相転移であると思われる。T_Qは磁場中で異方的な振る舞いを示し,[100]方向に磁場をかけると低温側に,一方[110]と[111]方向では高温側にシフトする。このことから,T_Qでの相転移は4f電子の電気四極子が交替的に空間整列する反強四極子秩序である可能性が高い。さらに,T_Qとほぼ同じT_<SC>=0.06K以下でバルクの超伝導状態も観測されており,PrRh_2Zn_<20>で四極子秩序と超伝導が共存していることが分かった。四極子自由度と超伝導の相関が示唆され,四極子揺らぎを媒介とした超伝導対形成の可能性がある。現在,物性測定グループに試料を提供しており,微視的手法による物性解明が進められている。今年度はさらに,PrIr_2Zn_<20>におけ2GPaまでの圧力下での電気抵抗測定を行った。超伝導転移温度T_<SC>は圧力ともに低温側に,一方で反強四極子秩序の起こるT_Qはわずかに高温側にシフトした。四極子自由度と超伝導の相関を示唆しているが,さらに高圧・低温での実験が必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに我々が見出してきたPr内包カゴ状化合物PrT_2Zn_<20>(T:遷移金属)における多彩な物性について研究を進めているが,当初の計画通り新物質の作製にも成功し,テーマを掘り下げるための系統的な研究が展開できている。また,国内外の研究グループへの試料提供も順調に進んでおり,共同研究による成果も着々と報告されている。
|
今後の研究の推進方策 |
試料によっては単結晶が得られていないという問題があり,4f電子の多極子を調べる上で重要な異方性の評価が遅れている。今後早急に試料作製方法を再検討し,純良な単結晶を作製して,この課題を克服したい。また,Prイオンを非磁性イオンで希釈した系や遷移金属を置換した系の研究はまだ進んでいないが,これについては母体の物性をしっかりと見極めた上で展開していきたい。
|