研究概要 |
Ce化合物の磁性は,RKKY相互作用とKondo効果の競合を記述するDoniach modelでほぼ記述すると考えられてきた。ところがCeRu_2Al_<10>において27Kで起こる相転移はで起こる相転移はDoniach modelでは記述できない新規な相転移であることを我々は2009年に指摘した。本研究の目的は,CeRu_2Al_<10>およびその関連物質の巨視的・微視的測定からこの相転移の機構を明らかにすることである。本年度は,RuおよびFeサイトをd電子数の異なるCo,Rh,Mnで置換した系の研究および,CeRu_2Al_<10>,CeOs_2Al_<10>のNQR測定を中心に行った。 Doniach modelで重要なパラメーターは,伝導電子とf電子の交換相互作用J_<cf>とフェルミ面の状態密度ρ(εF)である。CeRu_2Al_<10>の相転移は圧力,すなわちJ_<cf>を変化させることで制御できる。本年度は同様な変化がd電子数すなわちρ(εF)を変化させることで起こるかどうかを調べた。実験上の最大の問題は,対応するRh,Co,Mn化合物が存在しないということであるが,10~30%程度まで置換可能であるということをEPMA分析から明らかにした。CeRu_2Al_<10>の電子ドープ(Rh,Co置換)においては,近藤温度は急激に下がり,それに伴い反強磁性モーメントは急激に大きくなる。また,ホールドープ(Mn置換)では,近藤温度は急激に増加し,それに伴い反強磁性モーメントは小さくなり遍歴的に変化する。これは,d電子数を変化させることによって近藤温度を大きく変化させることができるということを意味する。CeFe_2Al_<10>は,CeRu_2Al_<10>の母物質と位置づけられる。CeFe_2Al_<10>の置換においてもCeRu_2Al_<10>と同様な近藤温度の変化が見られたが相転移が出現することがなかった。このことから,CeRu_2Al_<10>の相転移は電子数が重要であり,近藤半導体であることが相転移と強く関係していることが分かった。 また,CeRu_2Al_<10>のNQR測定から,磁気構造は中性子回折と矛盾がないことを示し相転移温度で通常の磁気点でみられる1/T_1の臨界発散が存在しないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
d電子の置換効果の研究により,この相転移はJ_<cf>には関係しているが,ρ(εF)にはあまり関係していないことがわかった。また,微視的な観点からも相転移点で臨界発散が見られないことが明らかになった。これらは,CeRu_2Al_<10>の相転移がDoniacl modelでは記述できない新規なものであることを強く示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
CeRu_2Al_<10>における大きな問題は,磁化容易軸と秩序モーメントの方向が一致しないことおよびギャップと相転移の関係である。これらを調べるために,無冷媒横磁場マグネットを用いた角度回転磁化測定装置およびNMR測定装置を開発す,さらに8GPa程度までの圧力発生の開発を行う。これらを用いて,他の希土類化合物の磁気相図を作成し,CeRu_2Al_<10>の磁気相図の異常性を明らかにする。また,NQR/NMR測定の主としてT_1測定からより相転移とギャップの相関が圧力によりどう変化するかを調べる。
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