研究領域 | 重い電子系の形成と秩序化 |
研究課題/領域番号 |
23102720
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
光田 暁弘 九州大学, 大学院・理学研究院, 准教授 (20334708)
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キーワード | イッテルビウム / 価数秩序 / 価数揺動 / 圧力効果 |
研究概要 |
立方晶化合物YbPdは、金属的な電気伝導を示しながら価数秩序を示す珍しい物質と考えられてきたが、その秩序構造は特定されていない。また、通常のYb系とは逆に、圧力による磁気秩序の消失が観測される。これは戦術の価数秩序相が存在することが原因と考えることができ、圧力によって価数秩序を抑制すると通常のYb系と同様に重い電子状態を経て、別の磁気秩序相が出現する可能性がある。本研究ではこれらの特異な振舞について明らかにし、その機構を解明することを目的としている。 本年度は主に以下の4つの事柄について成果を得られた。 (1)価数秩序構造を明らかにするために単結晶を用いたX線回折を行い、T=125Kにおいて立方晶から正方晶あるいは斜方晶へ構造相転移していることを明らかにした。さらにT=105Kにおいて(1/200)の超格子反射を確認し、この温度以下で価数秩序構造が形成されていることを明らかにした。T=125Kの構造相転移はこれまで粉末X線回折では確認されなかったが、試料を粉末化する際に歪みが導入されたためと考えられる。従って単結晶を用いた構造解析が重要であることが再認識できた。 (2)圧力下の重い電子状態を調べることを目的として、改良ブリッジマン高圧セルを導入して、常温下でビスマスの電気抵抗の圧力依存性を測定することができた。この新しい高圧セルによって8万気圧程度の圧力下での物性測定が可能となり、YbPdの圧力下の振舞を極低温領域まで調べることが可能になる予定である。 (3)平成22年度中に測定した単結晶中性子回折の結果を解析したところ、単純なサイン波構造では説明がつかない複雑な磁気構造であることが判明した。 (4)T=0.25Kまでの温度域で磁化過程を測定したところ多段のメタ磁性が観測された。磁気秩序温度1.9K以下でのみ観測されることから、(3)の複雑な磁気構造を反映した振舞と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低対称構造への相転移や多段のメタ磁性などの新しい知見を得ることができた。とくに単結晶X線回折の結果は価数秩序構造の決定まであと一息のところまで来ていることを示すものである。その一方で、中性子回折については、原研3号炉の課題申請は採択されたが、地震のために実験が不能となり新たな実験が遂行できなかった。また、改良ブリッジマン高圧セルの導入も連携研究者との実験スケジュール調整が予想していた以上にはかどらず、当初計画より進み具合がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、単結晶X線回折により構造相転移後の構造を決定し、価数秩序構造の決定に繋げたい。また、磁場中中性子回折実験により、磁気モーメントを持ったYb原子の周期構造を浮かび上がらせることによって価数秩序構造についての知見を得る。一方、前年から進めてきた改良ブリッジマン高圧セルの導入については、一通りのノウハウを受け継ぐことができたところなので、実験のペースを上げて、極低温、高圧下におけるYbPdの重い電子状態、新たな磁気秩序状態の探索を目指す。
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