研究概要 |
本研究は、強相関電子系の中でも近年注目されている結晶構造に空間反転対称性のない重い電子系超伝導体CeRhSi3及びCeIrSi3を研究対象とする。そこで、中性子散乱研究により未解明であるCeIrSi3の磁気構造を明らかにすることや、圧力下物性測定及び中性子磁気非弾性散乱研究によりCeRhSi3及びCeIrSi3の磁気励起等を観測することによって、結晶構造に空間反転対称性のない超伝導体の磁性と超伝導の関わりについて統合的・統一的に解釈することを研究の目的とした。 本年度はCeIrSi3の磁気構造決定のために米国オークリッジ研究所にて中性子回折実験を行った.その結果,a*とc*の両成分が非整合であり,CeIrSi3の磁気モーメントがa軸方向を向く磁気構造であることが分かった.CeRhSi3の磁気構造はa軸方向を向くLSDW構造であったが,CeIrSi3の磁気構造もa-b面内で見れば同一の磁気構造である.これらの磁気構造は,「c*成分が整合が非整合かに依らずにa軸方向を向く構造が安定である」との群論的解析とも矛盾しない,また,磁気モーメントの大きさもCeRhSi3と同様に0.14μBであった.そこで,超伝導に影響を及ぼすと考えられる磁気構造が両物質に似た影響を及ぼすことが考えられ,両物質の超伝導特性が非常に似ていることと矛盾しないと考えられる. また,これまで未報告のCeIrSi3の結晶構造の報告の単結晶X線回折により,空間反転対称性のない正方晶構造(空間群14mm)であることを確認した.さらに,CeRhSi3,CeIrSi3の熱電能の測定を行い,近藤ピーク温度が圧力により増大することを観測している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1番の目的であるCeIrSi3の磁気構造解析がほぼ決定できたことが一番の収穫と考えている.2番の目的である琉球大学における極低温物性測定環境(希釈冷凍機)の構築がやや遅れていると考えている.希釈冷凍機を設置するための工事の大学内予算の獲得に時間がかかり,年度の後半になったためである.また,本科研費で購入したピコボルトメーターも所謂科研費7割問題で,発注は当初の予定から遅れ,納品はさらに年度後半になってしまい,測定装置の開発が遅れ気味である.2つの理由を勘案して「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の点について研究を重点的に進める. I.Ce(Rh,Ir)Si3のX線回折による結晶構造決定によりバンド計算を依頼し,磁気構造の波数ベクトルとの比較を行う. II.希釈冷凍機温度における圧力下物性測定(電気抵抗,熱電能)の装置を完成させ,CeRliSi3とCelrSiSの測定を行う.これらの物性測定を通して,圧力下量子臨界点に関する知見を得る. III.CeRhSi3の中性子非弾性散乱実験を行うことにより,既知の非整合波数k=(0.215,0,0.5)を中心としてLSDW相の磁気励起の全体像を明らかにし,磁性と超伝導の関わりについて統合的・統一的に解釈する.
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