研究領域 | 重い電子系の形成と秩序化 |
研究課題/領域番号 |
23102723
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
小林 寿夫 兵庫県立大学, 大学院・物質理学研究科, 教授 (40250675)
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キーワード | 多重極限 / 量子臨界点 / 価数揺動 / 放射光X線 / メスバウアー分光 |
研究概要 |
重い電子系Yb化合物において、常圧力下80mKで超伝導が出現することが初めて示されたβ-YbAlB_4は、常圧力下常伝導状態において非フェルミ液体的性質を示していることから、量子臨界物質であると考えられる。また、常圧力下20Kでの光電子分光測定によりYbイオンの価数は、+2.75と見積もられ、価数揺動が重要な役割を演じていると指摘されている。一方、β-YbAlB_4の多形体である、α-YbAlB_4は価数揺動物質であるが基底状態ではフェルミ液体である。しかし、30kOeの磁場を印加することでメタ磁性転移を示し、非フェルミ液体的電気伝導性が観測されている。これらの結果から、α-YbAlB_4とβ-YbAlB_4での量子臨界性とYbイオンの価数揺動状態との関係に興味が持たれている。 そこで、初年度である本年度はα-Yb(Al,^<57>Fe)B_4単結晶試料を育成した。その試料を用い^<174>Yb放射光メスバウアー分光および^<57>Feメスバウアー分光の測定を行った。 ^<174>Yb(76.5keV)を用いる放射性同位体線源を用いたメスバウアー分光測定は、親核である放射性同位体^<174>Luの作製が困難であるため、殆ど行われていない。しかし、放射光による^<174>Yb核の共鳴励起が可能であることから、国内外で全く行われていない^<174>Yb放射光メスバウアー分光測定をSPring-8 BL09XUにより初めて試みた。その結果、3Kでのα-YbAlB_4単結晶試料を用いて、その測定に初めて成功した。しかし、SN比などの改善が必要であることが分かった。一方、^<57>Feメスバウアー分光法によるα-Yb(Al_<0.75>Fe_<0.25>)B_4の温度変化測定では、Ybイオンの磁気モーメントの磁気秩序によると考えられるメスバウアー・スペクトルの変化を9K以下で観測した。さらに、磁気秩序温度以上でもメスバウアー・スペクトルに変化を観測した。この変化はYbイオンの価数変化と関係していると考えられるが現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SN比にはまだ問題が有るものの、国内外で全く測定例のない^<174>Yb放射光メスバウアー分光測定に低温で初めて成功した。通常の放射線源を用いる^<57>Feメスバウアー分光法でも常磁性状態での吸収スペクトルに大きな変化を観測しているため。
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今後の研究の推進方策 |
今後、温度・圧力・磁場などの実験条件の異なる環境で^<174>Yb放射光メスバウアー分光測定を行うために、SN比の改善を行う。一方、^<57>Feメスバウアー分光法で観測されている常磁性状態での吸収スペクトルの大きな変化は、試料の状態などに強く依存することが分かってきた。常磁性状態での57Feメスバウアー吸収スペクトル変化は、研究計画の段階では予想していない結果である。この変化の原因の本質についての研究も遂行する。また、Ybイオンの価数揺動の時間スケールを議論するためには、固有測定時間の異なる手法で測定も不可欠である。そこで、吸収測定などによるYbイオンの価数の温度・圧力・磁場依存性の測定も行う予定である。
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