重い電子系Yb化合物において、常圧力下80mKで超伝導が出現することが初めて示されたβ-YbAlB4は、常圧力下常伝導状態において非フェルミ液体的性質を示している。また、常圧力下20Kでの光電子分光測定によりYbイオンの価数は、+2.75と見積もられ、価数揺動が重要な役割を演じていると指摘されている。一方、α-YbAlB4は価数揺動物質であるが基底状態ではフェルミ液体である。しかし、30kOeの磁場を印加することでメタ磁性転移を示し、非フェルミ液体的電気伝導性が観測されている。これらの結果から、α-YbAlB4とβ-YbAlB4での量子臨界性とYbイオンの価数揺動状態との関係に興味が持たれている。 本年度はまず、YbAlB4での5Kでの174Yb放射光メスバウアー分光測定を行った。国内外で全く行われていない174Yb放射光メスバウアー分光測定をSPring-8により試み、SN比の向上に成功し解析可能なスペクトルの測定に初めて成功した。測定試料に単結晶を用いたこと、さらに原子核の寿命から期待される分解能よりも良い分解能で測定を行ったことにより、Ybイオンの価数揺らぎの時間スケール実験的に求めることに初めて成功した。その結果、Ybイオンの価数揺らぎの時間が異常に長いことが分かった。したがって、174Yb放射光メスバウアー分光法は価数揺らぎのダイナミックスをとらえるための最適なプローブである。さらに、価数揺らぎのダイナミックスが量子臨界現象では重要であることが分かった。一方、低温・高圧力下でβ-YbAlB4の電気伝導測定で観測されている異常と結晶構造とYbイオン価数との関係を調べるために、高圧力下X線回折及びX線吸収発光分光測定を行った。その結果、観測されている異常において、構造変態はなくB原子座標に変化があることが分った。さらに、Ybイオンの価数が+3に近づくことも分った。
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