研究概要 |
βパイロクロア酸化物超伝導体AOs206(A=K,Rb,Csに対しTc=9.6,6.3,3.3K)においては、OsO6の作るかごの中のアルカリ原子のラットリングが超伝導クーパー対を作る引力の起源と,なっていることが、物性研廣井らのこれまでの系統的な研究から明らかになっている。殊に、KOs206では、電子比熱係数から見積もられる多体効果による質量増強因子λが約6と極めて大きく、超伝導転移に伴う比熱の大きな飛びなどから極めて強結合の超伝導が実現していることが明らかになっており、その電子状態は大変興味深い。我々は、最近KOs206のdHvA振動の測定に成功した。測定には水冷銅磁石と希釈冷凍機を使用し、最高磁場35T最低温度30mKまでトルク法で測定した。観測されたフェルミ面とバンド計算との一致は良く、フェルミ面は完全に決定された。多体効果による質量増強はλ=5--8であり、電子格子相互作用によるものとしては異常に大きい。最大で自由電子質量の26倍の重い有効質量が観測されており、これは、f電子系以外ではまれに見る重い電子である。さらに、LuNi2B2CやMgB2など比較的高いTcを持つ電子格子相互作用起源の超伝導体の場合、特定のフォノンと特定の電子状態との間にだけ特に強い相互作用があって高いTcが実現しているが、それらと比較した場合に、KOs206では質量増強の強さがフェルミ面の各部位や方位によらずほぼ一様であるという顕著な特徴があることが明らかになった。これはこの系における電子ラットリング相互作用の特性を示すものと思われる。
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