研究領域 | 重い電子系の形成と秩序化 |
研究課題/領域番号 |
23102726
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
立岩 尚之 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 主任研究員 (50346821)
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キーワード | ウラン化合物 |
研究概要 |
重い電子系超伝導物質URu2Si2の電子―電子散乱と非従来型超伝導の相関を調べることを目的に、高圧下精密電子輸送特性の研究を行った。URu2Si2の「隠れた秩序」状態(転移温度T0=14.5K)の起源を巡って長く研究が行われている。さらに隠れた秩序状態の2Kで非従来型超伝導状態が出現する。圧力を加えると、臨界圧力Px ~ 0.5GPa近辺で、「隠れた秩序」状態から単純な反強磁性状態へと一次転移する。高圧下電気抵抗測定を通して、バルクの超伝導は臨界圧力未満の「隠れた秩序」状態のみ存在し、反強磁性状態では、フィラメンタリーな超伝導が現れることを明らかにした。また、「隠れた秩序」状態における電気抵抗の温度依存は 通常のフェルミ流体理論に従わない異常なものであり、高圧側の反強磁性状態では通常のフェルミ流体理論に従った電気抵抗の振舞が現れることが明らかにされた。「隠れた秩序」状態の電気抵抗の温度依存をρ = ρ0+α1T+ α2T2という式で解析した。電気伝導を正常散乱の寄与と異常散乱のそれを分離することを意図した。解析の結果、超伝導転移温度Tscは電気抵抗の異常成分α1Tの係数α1と比例関係にあることが明らかにされた。これは、「隠れた秩序」からの異常な電子ー電子散乱が超伝導を引き起こしていることを意味し、その起源解明に重要な指針を与えるものである。近年、銅酸化物超伝導や有機系超伝導物質でこの相関関係が明らかにされている。URu2Si2の電子状態が、これら強相関電子系超伝導物質と共通する普遍性を持つ事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、世界最高レベルの高純度単結晶試料と、高圧下精密物性測定システムを用いて、重い電子系超伝導物質URu2Si2の電子輸送特性を研究し、異常な電子・電子散乱と非従来型超伝導の相関を明らかにした。銅酸化物超伝導や有機系超伝導物質など、他の強相関電子系超伝導物質と共通するURu2Si2の普遍性を明らかにした。本研究の成果は、科学新聞(2012年3月16 日)にもプレス発表され、国際会議でも一件招待講演を依頼された。今後、「隠れた秩序」状態の起源解明に重要な指針を与えることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後、他のウラン超伝導物質や、半導体/絶縁体、半金属まで対象を拡張させ、高圧下精密物性測定を通して、電子状態の圧力応答や、基底状態の圧力誘起相転移前後の電子状態を詳細に調べ、ウラン5f電子の高圧物性を明らかにしてゆく。さらに、今年度開発した高圧下磁化測定用圧力セルを活用し、各種圧力誘起相転移の研究に役立て、研究を遂行してゆく。
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