エアロジェル中に形成される“汚れた”フェルミ液体と超流動ヘリウム3の近接系における、エアロジェル中の常流動液体ヘリウム3に浸みだす超流動秩序状態を、浸み出しに起因する帯磁率の異常を観測することで検証を試みた。観測方法としてSQUIDを用い、高感度の磁化・交流帯磁率同時測定に取り組んだ。 SQUID(磁束量子干渉計) を零点検出器に用いた交流インピーダンスブリッジを利用した静磁化と交流帯磁率の精密測定装置を開発した。本装置は、これまで重い電子系物質の磁気的特性解明の実験に用いられたものを改造し、磁場範囲0~10 mT、最低温度 300μK、周波数12~160Hz の測定範囲まで温度依存性および磁場依存性の測定が可能になっている。磁化・帯磁率測定では、バルク液体やエアロジェル表面に吸着された固体ヘリウム3の磁性が大きなバックグランドとなるため、SQUIDを2チャンネル用い、界面での効果を取り出すように工夫した。エアロジェルの合成においてクラックや表面でメニスカスが作られるなどの問題を解決し、ヘリウムの磁気的変化をとらえることのできる測定セルが完成した。現在、超低温での観測準備が進行中である。 エアロジェル中の液体ヘリウム3を伝播する超音波の実験も行った。常流動領域において、音速と減衰に異常なピークを観測した。本学術領域のメンバーである竹内、東谷両氏(広島大)はクヌーセン領域と流体力学的領域のクロスオーバーが音波の減衰の温度依存性に強く影響することを理論的に示した。領域研究会等で両氏と議論し、我々の観測した音波伝播の異常は、音波伝播の領域がクロスオーバーする温度域で粘性率が変化することによる透過率の変化に起因すると着想し、解析を進めた。クロスオーバー領域で起こる音波の異常な減衰の温度圧力依存性や減衰の大きさをこの物理機構で解明できた。
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