研究実績の概要 |
超流動ヘリウム3や超伝導のクーパー対形成が,フェルミ球上で,どれだけの深さまで及んでいるのか,(対生成の相互作用の大きさ Δ 程度なのか,あるいはフェルミ球の最深部までか)は興味深い問題であり,生成されているクーパー対が超流動ヘリウム3A相や一部のスピン三重項状態超伝導体のように,軌道角運動量を陽に持っていた場合に,その量が観測可能かどうか,も同様に面白い問題である.この問題は Intrinsic Angular Momentum (IAM)問題として,超流動 3He A-相が発見されて以来議論されてきた. この量を観測するには,超伝導体ではマイスナー効果により磁気的なプローブが使いにくい.そこで直径が 100μmの円筒容器に超流動ヘリウム3A相を閉じ込め,さらに回転を与え Mermin-Ho(MH) 構造を作り,その構造に固有のNMR 振動数を計算するという手法で,IAM が実際に観測に掛かるかどうかを判定する理論的考察を行った.MH 構造は回転に伴い,連続的に軌道角運動量 l ベクトルの空間構造を変化させる.このときの空間構造変化は, NMR の測定により決定できる.また,回転系での自由エネルギー Frot は,静止系の自由エネルギー F と Frot= F -ΩL の様に関係付けられるため,回転速度Ω に対する NMR の応答を観測することで,系の角運動量 L が軌道角運動量を含むかどうか,を決定することができる. このことを用いて,IAM が観測可能な場合と観測不可能についての NMR 応答を求め,東大物性研で行われた実験結果の解釈を試みた.その結果,IAMが観測に掛かり,クーパー対1個あたりの角運動量が1量子数だけ保持していると考えられることが判った.今後,温度依存性や dベクトルの構造の異なる Mermin-Ho構造を含めて理論予想を立てることを計画している.
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