研究領域 | 対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象 |
研究課題/領域番号 |
23103517
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
池上 弘樹 独立行政法人理化学研究所, 河野低温物理研究室, 専任研究員 (70313161)
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キーワード | 超流動ヘリウム3 / 表面束縛状態 / トポロジカル超流動 / マヨラナ粒子 / P波超流動 / 電子バブル |
研究概要 |
超流動ヘリウム3-B相の表面には、そのトポロジカルな性質を反映して、ギャップレスな束縛状態が表面に形成される事が予想されている。さらにその表面束縛状態は、粒子と反粒子が等価なマヨラナ粒子的性質を持つと考えられている。本研究の目的は、超流動ヘリウム3-B相の自由表面下に形成される表面束縛状態の観測およびそのマヨナラ粒子性の検証である。 本年度は、表面束縛状態を観測することを目指して、自由表面下にトラップされたイオンの移動度の測定を行った。測定には負イオンである電子バブルを用いた。電子バブルの輸送現象を0.2mKという超低温領域まで高感度に測定可能な測定系を新たに構築し、電子バブルの移動度を深さを変えて測定した。表面束縛状態が形成されていると思われる領域で深さを大きく変えて測定を行ったところ、測定された移動度は深さ依存を示さなかった。これは、電子バブルの移動度がバルク準粒子との散乱で決まっており、表面束縛状態からの寄与は小さいためであると考えられる。 一方、超流動ヘリウム3-A相で電子バブルの輸送現象の測定から、電子バブルの軌道が1ベクトルと垂直方向に曲がるというintrinsic Magnus効果を初めて観測した。この現象は超流動A相が時間反転対称性を破った状態である事を直接反映しており、本結果は、時間反転対称性の破れの初めて直接観測、1ベクトルの向きの初めての決定という点で大きな意味を持つ。さらに、1ベクトルの向きが空間的に変化する1ベクトルドメイン(texture)も観測し、1 textureのダイナミクスの研究という新たな可能性が開けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面下のイオンの輸送現象を0.2mKという超低温領域まで高感度に測定することが可能になり、それにより電子バブルの移動度への表面束縛状態からの寄与は小さいということが明らかになった。表面束縛状態の観測には未だ至っていないが、今後イオンを用いて表面束縛状態を観測するための基礎的技術がこれまでの研究により確立した。1ベクトルと垂直方向に曲がるというintrinsic Magnus効果を初めて観測した。この現象は超流動A相が時間反転対称性を破った状態である事を直接反映した現象であり、その現象を観測した事は非常に大きな意味を持つ。
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今後の研究の推進方策 |
測定を負イオン(電子バブル)から正イオンに切り替え、輸送現象測定により表面束縛状態の観測を目指す。正イオンは移動度が大きいため、イオンをクーパー対の対破壊速度まで加速できる。それを利用して対破壊引き起こすことにより表面束縛状態への励起を引き起こし、表面束縛状態の観測を試みる。また磁場に対する異方性を観測し、表面束縛状態がマヨラナ粒子であることを検証する。一方、超流動ヘリウム3-A相で発見したintrinsic Magnus効果の詳細な性質を実験的に明らかにし、Wey1粒子やトポロジカル現象の観点からの理解を深める。
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