研究領域 | 対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象 |
研究課題/領域番号 |
23103519
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
花栗 哲郎 独立行政法人理化学研究所, 高木磁性研究室, 専任研究員 (40251326)
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / STM/STS / Landau量子化 / メモリー効果 |
研究概要 |
トポロジカル絶縁体Bi_2Se_3表面におけるDirac電子の磁場中における性質をSTM/STSを用いて調べた。Dirac点近傍のエネルギーにおける電子状態の空間分布を詳細に調べ、実空間におけるLandau軌道は、エネルギーに依存してポテンシャルの極大、あるいは極小に局在し、Landau準位のエネルギーで非局在状態をとることがわかった。このふるまいは、量子Hall状態で観測されるものと同じである。また、Dirac点の空間分布の相関を調べることで、電子が感じるポテンシャルの分布を決定した。この、ポテンシャル分布とSTM像に見られるSe欠陥の相関を調べたところ、Se欠陥がキャリヤのドナーとして働くことで、ポテンシャル分布が決定されていることがわかった。さらに、Fermi準位近傍でも分光イメージングを行い、Fermi準位 ±15meVの極めて狭いエネルギー範囲で電子状態が非常に不均一になることを発見した。このエネルギーは、Seの面内振動の光学フォノンのエネルギーに対応しており、現在両者の関連について検討している。 Bi_2Se_3は、典型的には10^<-19>cm^<-3>程度のバルクキャリヤを含むが、キャリヤに寄与する欠陥を減らすことのできるBi_2Te_2Seにおいても磁場中STM/STSを行った。Bi_2Se_3同様、Dirac表面状態の特徴を備えたLandau準位が観測された。この物質では、バイアス電圧を上げながら測定したトンネルスペクトルと下げながら測定したスペクトルに履歴が観測された。この履歴は、バイアス電圧が±60mVを超えると現れ、バイアス電圧の絶対値を60mV以下に保つ限り、直前に印加した最大バイアス電圧で決まる状態が保持される。すなわち、一種のメモリーとして働いていることがわかった。現在、類縁物質の系統的な測定から、メモリー効果の原因に関して検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、磁場中電子状態分布の解明と不純物効果の研究を2つ主テーマとして設定した。電子状態分布に関しては、ほぼ、当初の目標を達成したと考えている。予想外のメモリー効果の発見があったので、不純物効果の研究は若干遅れているが、必要な技術開発は進んでいるので、最終年度には何らかの結果を出したい。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた不純物効果の研究と、新たに発見したメモリー効果の研究のバランスを取りながら展開したい。不純物の研究では、あらかじめ不純物をドープした試料の研究を行う他、STMチャンバーに蒸着源を導入して、不純物のその場制御を行う予定である。本年度、交換可能な超小型電子ビーム蒸着源ホルダーの設計、製作を行いテストしたが、熱変形によるトラブルが生じ現在解決策を検討している。材料の加工前熱処理と大きめの遊びを設けることで、当初想定した性能が発揮できるものと考えている。
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