公募研究
蛇紋石は地殻からマントルへの水の貯蔵・運搬を担う主要な含水鉱物であり、地球深部(高温高圧)条件下における蛇紋石の物性を知ることは様々な地球物理的現象を理解するうえで重要である。しかしながら蛇紋石中の水に関する挙動については従来のX線等を用いた解析手法では検出が困難であり、たとえば昇温に伴う脱水過程において結晶中の水あるいは水素位置がどのように変化するか、あるいは脱水反応後に水がどのような状態で存在するか、といった基本的な反応素過程についての理解は十分でない。そこで本研究では、新学術領域研究で新たに導入される高温高圧発生装置および中性子散乱実験装置を用いて、蛇紋石多形であるLizardite(低温低圧で安定)とAntigorite(高温高圧で安定)の基本物性および脱水前後の反応素過程の解明を目指した。本年次は、まず上述の実験に用いる蛇紋石出発物質の入手および評価を行った。均質な蛇紋石の合成は一般に困難であるため、本研究では天然に産出した蛇紋石(計5か所)を入手し、放射光X線、電子線プローブマイクロアナライザー、透過型電子顕微鏡などを用いて、出発物質としての妥当性を評価した。検討の結果、Antigoriteについては長野県野母半島産のものが極めて化学的均質性や結晶性が高く、出発物質に適していることが分かった。また、Lizarditeについては、完全に単相の試料は見つからないものの、兵庫県大屋町産のものが比較的均質で出発物質に適していることが分かった。さらに本年次では、パルス中性子源の粉末回折パターンの相解析および格子定数精密化を自動的におこなうソフトウェア開発も行った。中性子実験はビームタイムが極めて限られているが、本課題で開発したソフトウェアによって実験現場での迅速な初期解析が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
東北地方太平洋沖地震の影響で中性子回折実験自体の進捗はやや遅れたが、24年4月の時点でJ-PARKのPLIANETビームラインにおける主要装置の建造はほぼ終了した。また、出発物質の評価・選定は順調であり、解析ソフトウェアの開発もほぼ終了している。これらの状況を総合的に勘案して、おおむね順調に進展していると判断した。
24年度はPLANETビームラインにおいて常温常圧および高温高圧下で合計二回程度の中性子回折実験を行い、蛇紋石脱水過程における結晶相の変化や水の存在状態の解明を目指す。また、脱水後の試料について透過型電子顕微鏡観察を行い、ナノメートルスケールの微細組織観察や組成分析を行う。これらの実験・分析結果から蛇紋石脱水反応の素過程について総合的に考察し、速やかに学術論文あるいは学術会議の場で研究成果を発表する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
高圧力の科学と技術
巻: 22(印刷中)(掲載確定)(不明)
In 'Deformation Mechanism, Rheology & Tectonics : Microstructures, Mechanics & Anisotropy', Geological Society of London Special Publications
巻: 360 ページ: 113-127
10.1144/SP360.7
http://pmsl.planet.sci.kobe-u.ac.jp