研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
23104502
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長谷 宗明 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (40354211)
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キーワード | カーボンナノチューブ / コヒーレントフォノン / タンパク質 / 構造変化 |
研究概要 |
本研究では、CNTとタンパク質複合体の相互作用に着目し、フェムト秒パルスレーザーを光源とした時間分解コヒーレントフォノン分光法を用いて、CNTあるいはタンパク質を選択的に光励起した際の構造変化やエネルギー移動のダイナミクスを実時間領域で研究することを目的としている。 今年度は、特にCNT-タンパク質複合体にアルコールを添加した際に起こるタンパク質の構造変化がCNTにもたらす影響を中心に調べた。また、フェムト秒再生増幅器を用いた高密度光励起により生じるCNTの構造変化がCNT-タンパク質複合体にもたらす影響についても予備的実験を行った。 CNT-タンパク質複合体にアルコールを添加した際には、タンパク質の二次構造の一つであるα-ヘリックスが安定化あるいは不安定化すると考えられる。実験では、タンパク質としてリゾチーム(LSZ)を選択し、このアルコール添加の効果をラディアルブリージングモード(RBM)のコヒーレントフォノン分光により調べた。その結果、アルコールとしてヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)が添加された場合、2種のカイラリティをもつCNTのうち、(13.2)よりも(12.1)のカイラリティをもつCNTとリゾチームが選択的に結合していることを示す結果が得られた。この結果は、HFIP添加によるLSZ内のα-ヘリックス構造の安定化と、CNT-LSZ複合体におけるカイラリティ依存の相互作用が相関を持つことを示唆している。また、高密度光励起により生じるCNTの構造変化の実験については、緩和時間がおおよそ180fbの光励起キャリアの信号を検出することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、予定していた音響光学素子によるCavity-dumpedフェムト秒パルスレーザーへのアップグレードを変更し、再生増幅器を用いた非同舳光パラメトリック増幅器(NOPA)の製作に切り替えた。そのNOPAの立ち上げを行いつつ、アルコール添加により起こるタンパク質の構造変化のCNT-タンパク質複合体への影響をコヒーレントフォノン分光により調べ、CNTのカイラリティ選択性に関する知見を得ることが出来た。また、同時に再生増幅器の基本波を用いたポンプ-プローブ分光システムを立ち上げ、CNTの高密度光励起下における時間応答の計測も行った。以上のように、計画をより適切なものへと変えながら、同時進行で様々な実験を展開した。
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今後の研究の推進方策 |
非同軸光パラメトリック増幅器(NoPA)の完成には、RegA9000の800nm光をさらに高強度にする必要がある。その為、RegA9000からNOPAまでの光路を見直し、エネルギーロスが無いように改善する。さらに、NOPA内のポンプ光(BBO結晶で変換した波長400nmの光)のBBO結晶への集光ミラーを現在の焦点距離25cmから15cmにし、ポンプ光の励起密度を改善する。以上の改善により、NOPAが発振すれば、予定通り広帯域のポンプ-プローブ分光測定を行うことが可能になる。
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