そのままでは人体に対して有害なカーボンナノチューブ(CNT)をタンパク質で修飾できれば、生体内で薬を運ぶことができるナノマシン(ナノカプセル)としての応用が期待できる。しかし、CNT-タンパク質間の結合の選択性や相互作用の詳細については、分子間力やクーロン相互作用などを基に議論があるが、未だ十分な理解が得られていないのが現状である。このような背景を踏まえて本研究では、CNTとタンパク質複合体の相互作用に着目し、フェムト秒パルスレーザーを光源とした時間分解コヒーレントフォノン分光法を用いて、CNTあるいはタンパク質を選択的に光励起した際の構造変化やエネルギー移動のダイナミクスを実時間領域で研究することが最終目的である。 今年度は、CNTの選択的励起を効率的に行うための基盤知識を得る為、半金分離された試料を用いて、特に金属型および半導体型の電子構造の違いによるCNTのコヒーレントフォノン励起ダイナミクスを中心に調べた。 金属型および半導体型の電子構造の違いによるCNTのコヒーレントフォノン励起ダイナミクスを調べる為、半金分離したSingle Walled CNT(SWCNT)溶液試料を産業技術総合研究所・ナノ炭素材料研究グループに作成して頂いた。実験では、SWCNT溶液をガラス基板上に配向膜として成長させ、フェムト秒レーザーを用いたコヒーレントフォノン分光法により、ラディアルブリージングモード(RBM)の励起パルス偏光依存性を調べた。その結果、SWCNT溶液とSWCNT配向膜では、偏光依存性が大きく異なること、および、その偏光依存性は励起波長にも依存することを明らかにした。
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