公募研究
本年度は、シトクロムc酸化酵素や亜酸化窒素還元酵素にみられる電子伝達に働く金属中心である電子伝達部位Cu_Aと軟体動物や甲殻類の血液に含まれる酸素運搬蛋白質であるヘモシアニンの機能を持つ人工蛋白質の理論設計のために銅活性中心の電子構造の理論解析を行った。Cu_A部位に関しては電子移動をスムーズに行うために活性中心が強い非局在性を示すような電子構造(σ_u^*状態)をとることが知られている。その起源を解明するため密度汎関数法による電子構造の解析した結果、Cu_2S_2コアそのものはCu_A部位と異なりπ_u状態が安定になり、特徴的なσ_u^*状態をとるにはCu_2S_2コアの銅-銅間の直接相互作用に加えて、エクアトリアル位に配位子が配位することが必要であることが明らかとなった。その際、Cu_2S_2コアのσ_u^*軌道と配位子の静電相互作用、軌道相互作用により、基底状態がσ_u^*状態となり、強い非局在性を示すことが判明した。またグルタミン酸・アスパラギン酸の配位も強い負の静電相互作用を示すためにσ_u^*基底状態になると期待される。ヘモシアニンに関しては様々な配位子(アンモニア、ヒスチジンの側鎖であるメチルイミダゾール、HBpz_3(= hydrotris{3,5-diisopropyl-pyrazolyl}borate))を用いたヘモシアニンのモデルに対して密度汎関数法による理論計算を実施したところ、アンモニア、メチルイミダゾール、HBpz_3の順に酸素結合に関わる銅のd軌道エネルギーが酸素のLUMOに近づいていった。この軌道エネルギーの準位が近づくほど酸素との軌道相互作用が大きくなり酸素結合性に違いが生じていることがあきらかとなった。ヒスチジンは結合できないアンモニアモデルと不可逆な結合をするHBpz_3モデルの中間にあり、このことが可逆的な酸素結合を発現するものと考える。
2: おおむね順調に進展している
初年度の計画としていた機能性蛋白質のための遷移金属活性中心の設計に必要な活性中心の電子構造と分子構造の関係に関して様々な知見が得られ、次年度に計画している反応空間の設計および人工銅蛋白質の理論設計へと進めることができるため。
当初の計画通りに(1)コイルドコイル中の反応空間の理論設計と(2)コイルドコイルを用いたヘモシアニン様人工銅蛋白質・Cu_A電子伝達部位の理論設計・検証に関して研究を推進する予定である。
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International Journal of Quantum Chemistry
巻: 112 ページ: 208-218
10.1002/qua.23191
巻: 112 ページ: 253-276
10.1002/qua.23218