研究実績の概要 |
超大規模電子状態計算(オーダーN理論)の基盤的数理(線形代数的)アルゴリズムとして、一般化シフト型線形方程式((zS-H)x=b)に対する、クリロフ部分空間理論を構築した。具体的には、多重アーノルディ法・一般化シフト型共役直交共役勾配法・一般化シフト型準最小残差法、である。これらの数理的振る舞いを検討した。さらに、前年度までに構築された類似手法である、一般化ランチョス法・一般化アーノルディ法・アーノルディ(M,W,G)法にも含めて、その数理的性質を比較した。具体的には、1、1反復あたりの計算時間、2、メモリ必要量(主に漸化式の長さに依存する)、3、エネルギー積分における数値誤差混入可能性の有無および全占有極限(fully-filled limit)における物理量保存則の成立の有無、である。これらの 結果、分子動力学計算(全エネルギーおよび原子に働く力)には、多重アーノルディ法が優れていると結論づけられた。テスト計算を「京」コンピュータ10万コアまでで行い、1000万原子系での並列効率(ストロングスケーリング)αは、例えば複合ナノカーボン固体についてはα=0.95であった。実際の計算におけて、上記の新しい数理アルゴリズムの利用の他、ノード間通信を減らすためにノード上での計算を一部冗長に行う、などの実装上の工夫も行っている。これらは、次世代スパコン(ポスト「京」)を考える際には、ますます重要になると思われる。本研究で構築された数理アルゴリズムは、汎用な線形計算アルゴリズムであるため、電子状態計算のみならず、一般化固有値問題を利用する他分野にも適用可能であり、大きな成果であると言える。
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