公募研究
本研究では,「物質デザイン」のコンピューティクスに適した物質生成・加工のダイナミクスに対するランダムウォークモデルを提案する.物質生成・加工において,対象となる分子の集合の状態とそれらの結合関係がなす遷移関係は,前者を頂点,後者を辺とした有限グラフとして記述できる.化学反応はマルコフ的(無記憶的),つまり現在分子集合がどの状態にあるかのみに依存し,過去にどの反応経路を経由してその状態に到達したかによらない形で起こる.以上を考えると,物質生成・加工のプロセスにおける分子反応は,有限状態マルコフ連鎖,すなわち有限グラフ上のランダムウォークとしてモデル化できる.すなわち物質デザインは化学反応設計でありランダムウォーク設計となる.よってこれに望ましいランダムウォークの設計論が加われば,望ましい物質の生成プロセス自体を設計することが可能となる.本研究では,実際にコンピューティクスにおいて利用可能な「モデル」として,十分大きい複数の状態を1頂点として代表させた,いわば近似モデルとしての物質生成ダイナミクス・ランダムウォークモデルの提案を目指す.すなわち,本研究は1)物質生成ダイナミクスに対するランダムウォークモデルの提案と,2)そのモデルに適した望ましいランダムウォークの設計論,の提供を目指すものである.平成23年度研究では,1) 複数のDNA配列が結合する様子のシミュレーションモデルの提案,実装と実験を行ないその速度推定法の提案した.また,2)複数粒子を扱うランダムウォークの到達時間,全訪問時間の関係式の導出に成功した.さらに粒子結合モデルにおける,結合時間の非自明な上界値の導出に成功した.
1: 当初の計画以上に進展している
研究開始時には,その複雑さから理論的な見積もりは困難と予想していた多粒子系のランダムウォークに対して,シミュレーションの実行のみならず,精度の良い理論的なバウンドを得ることができたため.なお,この研究成果の一つは分散計算理論のトップ国際会議であるPODC2012にて発表されることとなった.
本研究は理論研究とそれに基づく計算機シミュレーションを基軸とした研究である.現在のところ,上述のように予想よりも早く,精度の良い理論的なバウンドが得られているため,もう一つの軸である計算機シミュレーションへの研究シフトを考えている.また,良い研究協力者を得て,生化学実験の実施も行いたい.
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
PODC '12 Proceedings of the 2012 ACM symposium on Principles of distributed computing
巻: - ページ: 47-56
10.1145/2332432.2332440
26th IEEE International Parallel and Distributed Processing Symposium Workshops & PhD Forum, IPDPS 2012
巻: - ページ: 872-877
10.1109/IPDPSW.2012.107
2011 Second International Conference on Networking and Computing
巻: - ページ: 360-363
10.1109/ICNC.2011.70
37th International Workshop, WG 2011, Teplá Monastery, Czech Republic, June 21-24, 2011. Revised Papers
巻: 6986 ページ: 271-282
10.1007/978-3-642-25870-1_25