研究実績の概要 |
これまで我々は、従来の第一原理計算だけでは直接取込むことのできない、水素原子核やミューオン、陽電子の量子揺らぎも含めた量子多成分系分子理論を展開してきた。具体的には、分子軌道(MO)法や、量子モンテカルロ(QMC)法、さらには密度汎関数(DFT)法に基づく手法と、経路積分法に基づいた、量子多成分系分子理論手法である。本研究課題では、このような量子多成分系分子理論を深化させ、計算機科学との融合を含めて、物質デザインへの展開を探る。本年度は、以下に示す研究項目を実施した。
①量子多成分系分子理論の深化:大規模系への拡張のため、経路積分法におけるポテンシャルの評価に、半経験的分子軌道法やDFTB法を実装することで計算コストを抑えることに成功した。併せて経路積分法における並列技法への実装も行った。それらの開発により、より効率的に計算を実施することを可能とした。 ②物質デザインへの展開:①で開発した大規模計算可能な手法を駆使することにより、本年度は(1)経路積分分子動力学法を用いた核酸塩基対の水素結合における量子効果および温度効果による影響、および(2)ミューオン化合物の超微細結合定数に関する、予備的な解析を行った。 (1)G-C、A-T pairsに対しては150~450Kの温度条件で、分子軌道計算、古典分子動力学計算、経路積分分子動力学計算を実行した。主成分分析を行ったところ、最も低い四つの振動モード(buckle, propeller, opening, stagger)に対応する主成分が得られた。特に、核の量子効果はpropellerの分子振動を促進させることがわかった。
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