研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
23104514
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中村 恒夫 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (30345095)
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キーワード | 計算物理 / ナノコンタクト / 非平衡伝導理論 / 分子エレクトロニクス |
研究概要 |
第一原理非平衡伝導計算プログラムを開発した。電気伝導とともに、電子―分子振動散乱による非弾性電流、分子振動励起を最低次数展開で近似的に評価する方法についても開発・実装を完了した。以下にこれを用いたシミュレーション研究成果をまとめる。 (1) pn接合模倣型分子の整流性を示した。バルクpn接合とは異なり、電圧に対する応答として、伝導性軌道と電極電子状態とのカップリングのと軌道位相の協奏効果が整流方向を規定していることを明らかにした。(2) 半導体有機分子膜と金属界面の電気伝導が、電極表面と分子の弱い結合やcharge donation/back donationによりI-V特性が大きく変化することを定量的に示した。(3) pn接合型分子整流素子で、(電流の整流性はでているにも関わらず)非弾性電流はbias-polarityに対する非対称性が抑制されるうることを明らかにした。(4) 分子整流素子において、分子の電子相関効果が、電圧が高くなると整流性を増強する場合があることを、第一原理から抽出したモデルを用いた非平衡電子状態計算から示した。(5) 有機金属錯体をユニットにした分子積層膜において長距離伝導が計測されてことから、計測結果と併せて、理論計算でこの長距離伝導がコヒーレント伝導であることを示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非平衡グリーン関数効率計算アルゴリズム開発、アルゴリズム実装、シミュレーション、繰り込み理論方法の開発、局所加熱定量計算を行い、これを広く実在系へ適用し、精密計測や分子合成との共同研究をシミュレーション主導で展開していく基盤をつくることが目的であった。 今年度においては、基礎理論においては、当初予定したレベルでの簡易な近似手法について、第一原理プログラムへの実装もほぼ完了した。 また。同時進行で進めている、分子接合系の非平衡電流現象へのシミュレーションの適用についても、国内・国外の精密計測実験グループと積極的に共同研究を展開を行った。理論計算から、より統一的観点からの分子ダイオード特性の解析、整流性と局所発熱の関係といった、計算によるアプローチが重要な問題について挑戦し、一定の成果を得、国際学会や国際論文誌にも公表できた。従って、当初計画に対し、現時点で順調な達成度にあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、現在開発しているプログラムの高速化により、より大規模なナノコンタクト系への第一原理シミュレーション適用を図っていく。 また、得られる大量の計算データから、より本質的パラメータを取り出し、簡便なモデルを再構築し、これをもとにしたより進んだレベルの近似計算による補正項評価といった、多角的シミュレーション基礎理論の構築へも進んでいく予定である。
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