研究領域 | 半導体における動的相関電子系の光科学 |
研究課題/領域番号 |
23104703
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石原 純夫 東北大学, 大学院・理学研究科, 教授 (30292262)
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キーワード | 光物性 / 強相関電子系 / スピン転移 / モット絶縁体 / バンド絶縁体 / ナローギャップ半導体 |
研究概要 |
本研究課題では、バンド絶縁体とモット絶縁体の境界近傍に位置するナロー・ギャップ半導体において、その光励起状態と生成される電子・正孔対の動的相関効果を明らかにし、半導体における光科学分野の新たな研究対象として確立することを目的とする。特にコバルト酸化物などの具体的な対象物質を例にとり、その電子・格子レベルでのモデル化、モデルの解析、結果の考察を通して、励起状態の特性、動的相関効果の分析を行う。 本年度は特に以下の研究を実施した。"バンド絶縁体-モット絶縁体近傍における光照射効果とスピン転移"。この研究は以下の二つに分けて実施した。[1]弱励起により生成された一対もしくは少数の電子正孔対系の安定状態。二軌道ババード模型から導いた有効模型を用いて、基底状態と光照射状態の性質を解析した。ここでは低スピン・バンド絶縁体と高スピン・モット絶縁体の近傍で、スピン状態秩序相が出現すること、また相境界近傍のバンド絶縁体に光を照射することで、高スピン状態が生成されることを見出した。光誘起状態を詳細に解析することで、光照射によりホールと高スピン状態が束縛状態を形成して安定化すること、この束縛状態内の励起がポンプ・プローブスペクトルに特徴的な構造が出現することを見出した。得られた計算結果をコバルト酸化物の光学電気伝導度の実験結果と比較を行い、実験により見いだされたピーク構造の解釈を与えた。[2]光照射実時間ダイナミクスの解析。時間依存平均場法を用いることで、低スピンバンド絶縁体に光を照射した後の系の実時間ダイナミクスを解析した。高スピン状態の生成が、光により生成されたホールと電子との対消滅により生じること、これが時間分解光電子分光法により検証可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
二つの絶縁体転移点近傍で、安定な光照射状態(準安定状態)の解析とともに、光照射にともなった実時間ダイナミクスのシミュレーションを実施した。また得られた結果と実験データを詳細に比較することで、実験データの解釈を与えた。これらの成果は学術雑誌とともに、新聞発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまで解析に用いている計算手法では電子間相互作用の効果は正しく取り入れられるが、取り扱う系のサイズや次元に限りがある。この問題を解決するために、動的平均場近似法(DMFT)を実時間に拡張した方法の開発と、現在着目するバンド絶縁体・モット絶縁体近傍の光誘起現象の解析に適用する。これにより、局所的な電子相関効果を正しく取り扱うと共に、二つの絶縁体間の相転移を記述することができ、この光照射効果とその後の時間発展について解析することが可能となる。この課題では数値計算上のアルゴリズム、コードの開発を並行して行うことになる。
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