半導体中に高密度に光励起された電子正孔系は、電子正孔対の密度、温度に依存して励起子ガス、電子正孔プラズマ、電子正孔液体といった多彩な相を示す。密度の増加に伴う励起子気体から電子正孔プラズマへの移行は、励起子モット転移(正確にはクロスオーバー)と呼ばれ、電子正孔系の絶縁体金属転移として長い研究の歴史を持つ。低密度領域ではワニエ方程式に基づく励起子気体描像、高密度領域の電子正孔プラズマ相は平均場近似がよく成り立ち、実験、理論ともによく理解されている。しかし、励起子モット転移濃度近傍の中間密度領域では、電子相関の効果を摂動で扱うことは理論的には困難であり、実験的にも励起子がどのように遮蔽されて金属相に至るのかは明らかになっていなかった。我々はこの問題に、テラヘルツ分光法という新たな手法で挑んだ。モデル半導体として、Si、Geを取り上げ、励起子相関が電子正孔対密度の増加とともにどのように遮蔽されていくかを、温度・密度を変えながら調べた。テラヘルツ帯の複素誘電率スペクトルに対してドルーデ-ローレンツモデルによるフィッティングを行い、電子正孔プラズマと励起子の寄与を成分分解し、励起子イオン化率を決定することに成功した。Si、Geいずれの場合も、励起子相関がモット密度を越えても残存すること、1s-2p遷移のエネルギーはほとんど変化しないことを明らかにした。クーロン遮蔽に寄与する縦波誘電率関数に、プラズモンのピークに加えて励起子内部遷移に付随するピークが存在し、それがモット密度を越えても残ることを明らかにした。このことは、従来のクーロン遮蔽の議論で用いられる単一プラズモンポール近似が適当ではないことを示している。また、励起子のイオン化率を定量的に決定することに成功し、イオン化率を指標としてSiの電子正孔系の相図を決定することに成功した。
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