本研究が目的とするのは、強力なレーザー光によってよって引き起こされる量子多体系の非平衡相転移について理論的に調べることにある。この目的を達成するために手法の開発(非平衡動的平均場理論)と新現象の提案を平行して行った。 具体的に平成23年度は、相関電子系における反転分布現象に注目して研究を行った。反転分布とは、電子分布が高エネルギー側に偏る状態で、負の温度状態といってもよい。反転分布が実現すると、元々斥力である電子間相互作用が実効的に引力になる、という著しい効果を青木のグループは理論的に提案をした。この状況下では、電荷秩序やs波超伝導といった、本来は引力系でしか実現しないような量子秩序が斥力の電子系で実現し得る。 まず、Tsuji et al. Phys.Rev.Lett.106 (2011)にて相関電子系に定常的なac電場(レーザー光)をかけたときのダイナミクスを非平衡動的平均場理論により解析した。定常的なac電場の元ではホッピングパラメータがベッセル関数によって「繰り込まれる」ことが知られいたが、このためにバンドが反転する状況でac電場を突然印加すると反転分布を実現できることを示した。 また、Tsuji et al.Phys.Rev. B 85(2012)においては、定常ではなくパルス電場で反転分布を実現する方法を調べた。これは、現在の実験技術では強電場はパルス的にしか生成できないことを踏まえたものである。研究の結果、ある種の非対称パルスを照射することができれば反転分布が実現することが明らかになった。 現在、実験家とも協力して、相関電子系における反転分布の実現について研究を継続している。
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