研究概要 |
平成23年度の目的は,(i)純位相緩和を輻射緩和とパラレルに扱う定量的理論手法の確立,(ii)半無限一次元場で顕著に現れる輻射補正の活用,の二点であった.(i)に関しては,考察対象となる系に加え純位相緩和の起源となる低エネルギー励起場も含めた「拡張量子系」の量子動力学を入出力定式化により厳密に解析する手法を提案した.本手法は,輻射緩和・無輻射緩和・純位相緩和の三種の緩和を統一的なフォーマリズムで解析することを可能にするものであり,これらが共存する固体系での量子光学応答の定量的解析に大変適している.具体的には,まず本手法を量子ドットの共鳴蛍光に適用することで,低エネルギー場から連続的にエネルギーを吸収して系を冷却する「固体でのレーザー冷却」の可能性があることを理論的に示すことができた.また,本手法を量子ドットの自然放出に適用し,量子情報処理における単一光子源としての観点から,放出光子の量子力学的な諸性質(スペクトル・干渉性・純粋度)を評価することができた.(ii)に関しては,超伝導量子回路などで実現されているような半無限一次元場の端点における境界条件が操作可能である状況を想定し,この一次元場に結合した量子ビットの光学応答を考察した.その結果,量子ビットの輻射崩壊レートおよび共鳴周波数の双方を,境界条件により制御可能であることを示した.超伝導量子回路は元来制御性の高い物理系であるが,上述の結果は本系に境界条件自由度という新しい制御パラメータを加えることができることを意味する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,これまでに数多くの研究の蓄積がある二準位系の量子現象を,A系を含む多準位系へと展開することを目標としている.これまでは,自然に実現される多準位系の活用を検討してきたが,高強度の光修飾によりもたらされる「着衣状態」の多準位系としての可能性を検討したい.
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