光学測定はバンド間遷移・バンド内遷移ダイナミクスや格子振動などを測定する良い手段であるが、光の回折限界のために微小領域の測定には限界がある。近年半導体ナノ構造、メタマテリアル、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノ材料におけるさまざまな興味深い現象が知られている。そこで、本研究ではヘテロダイン干渉法を用いたチップ増強散乱法を用いることにより10nmスケールの空間分解能でこれらナノ材料の誘電率測定およびダイナミクス測定を行う。ナノ構造体の電子、格子状態とそのダイナミクスを高空間分解能で測定することにより、新たな知見を得ることを目的とする。 散乱光の強度と位相を高空間分解測定するために、チップ増強レイリー散乱光のヘテロダイン測定を行った。初めに散乱光のヘテロダイン検出系の作製と、標準試料である金ナノ構造からの散乱光の強度と位相測定を行った。具体的には、音響光学素子(AOM)により周波数シフトした光(ω-ω')を参照光として、周波数シフトしていない0次光(ω)を試料への励起として用いる。散乱される近接場光は、チップと試料との距離に非線形に依存するのに由来し、2Ωの強度変調を受けている。したがって、ロックインアンプでω'-2Ωの成分を測定することにより試料の複素誘電率の大きさを測定できる。これにより、試料の電子状態を15nm程度の高空間分解で測定することができる。 励起光の波長を変化させ、Si基板上の金薄膜の近接場散乱光の強度と位相の測定を行った。その結果、2.3eV付近に金のプラズマ周波数を反映した位相シフトのピークが現れ、高エネルギー側には金薄膜の散乱光強度の減少を観測した。さらにEB露光法で作成した直径200nmの金ナノディスクからの散乱光の強度と位相分布を測定し、FDTD法により計算した電磁場分布との比較を行った。
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