24年度は前年度に引き続いて、光が原子に引き起こすメカニカルな効果について調べた。実験では機械振動子を基底状態まで冷却し、コヒーレンスを保ったまま光に状態を転送し読み出すことが可能になったことを動機に、本年度は特に光の非古典的状態を、原子の集団運動に転送・生成する方法を探求した。 ラムダ型三準位原子に2つのレーザーを照射したときの原子内部固有状態の一つに暗状態がある。この状態では内部励起状態が占有されないことから、自然放出によるディコヒーレンスが抑制され、非古典的状態の生成に有利である。また内部状態が暗状態である原子の重心運動を決定する方程式には、光による有効ゲージポテンシャルが生じることから、原子の運動は磁場中の電子と同じ振る舞いをする。この類似を後に電子に活かす可能性を考慮に入れて、ラムダ型三準位原子と、コントロール光・プローブ光の2本のレーザーを用い、ここでコントロール光をコヒーレント状態の重ねあわせとすることで、原子の重心運動の基底状態は、異なる運動量状態の重ね合わせとなることを示した。この手法は原子の量子統計性に依らないだけでなく、磁場中の電子との完全な類似性から、電子のメカニカルモードにおいても非古典的な状態を生成する手法として適用できると考えられる。 本年度は有効ゲージ場が原子に及ぼす影響を定性的に調べるため、自由空間の原子で計算を行ったが、次にこの手法を共振器系に拡張し、原子が光に及ぼす動的な効果、原子間・電子間相互作用、および光の重ねあわせ状態のディコヒーレンスをも含めた定量的な計算が必要であり、今後も引き続き研究を継続する予定である。
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