研究概要 |
半導体共役ポリマーのキャリア密度制御およびテラヘルツ時間領域分光を行い,キャリアの光学的・電気的性質を調べた。 1.透過配置の測定では,ポリマー薄膜の複素屈折率スペクトルが得られる。まず,未ドープ試料を測定することにより,ドープされるキャリアにとっての背景誘電率を決定した。さらに,直流伝導度100S/cm以上を有する複数の高ドープ試料を用意し,複素伝導度スペクトルの変化を観測した。共役ポリマー中のキャリアは,一般に,格子との相互作用により局在性をもった状態(ポーラロン状態)にあると理解されている。高ドープ試料においては,クーロン相互作用が加わることにより,キャリアの局在度や散乱時間が変化していると考えられる。現在,このような観点から測定結果の解析・考察を行い,追加実験も進めている。 2.放射配置の測定では,直流バイアス電場の印加されたポリマー薄膜をフェムト秒レーザーで励起することによって,キャリアのダイナミクスを反映したテラヘルツ放射波形が得られる。今年度は,そのための測定系の構築,電極付き薄膜試料の試作,およびデータ解析法の開発を行った。放射波形の位相情報を利用した詳細な議論を可能にするためには,時間原点の位置を精確に決定する必要がある。今回開発した解析法では,過渡的テラヘルツ放射の因果律に基づいて導出される修正クラマース・クローニッヒ関係式から,時間原点の位置を十分な精度で簡便に決定することができる。この関係式は,テラヘルツ分光法の長所を生かした「錨点」を含んでおり,数THz程度に限られた周波数範囲でも分散積分の優れた収束性を示す。現在,実験面で測定系と試料の改良を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キャリア密度の制御された共役ポリマーのテラヘルツ透過分光を行い,複素伝導度スペクトルの系統的なデータが得られつつある。また,放射分光測定系の構築,電極付き試料の作製,および時間原点決定法の開発を行い,ダイナミクスを調べる準備もできた。全体として,動的相関効果を明らかにするための研究が順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はこれまでおおむね順調に進展してきているので,今年度も引き続きテラヘルツ時間領域分光法を中心的な測定手法として,共役ポリマーにおけるキャリアの光学的・電気的性質を評価する。より高い導電性を有する試料や異なる主鎖構造を有する試料に対象を拡大しながら,キャリアの性質の普遍的側面と特異的側面を明らかにしていく。そこに現れると期待されるキャリアの動的相関効果を抽出する。最終年度であることを意識して,得られる物理とその制御技術を論文としてまとめることにも重点を置く。
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