研究領域 | 半導体における動的相関電子系の光科学 |
研究課題/領域番号 |
23104723
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大橋 洋士 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60272134)
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キーワード | クーパー対 / 異種粒子結合 / 強結合効果 / 励起子ポラリトン / 超流動 / T行列理論 / 相転移温度 / クロスオーバー |
研究概要 |
フェルミ原子ガス超流動と励起子ポラリトン超流動を統一的に扱うことを目指し、今年度は、対形成に関与する2種類のフェルミ粒子の質量が異なるフェルミ粒子系に対する強結合理論の構築を行った。これは、前者においてはカリウム40とリチウム6の異種原子クーパー対、後者においては電子と正孔の有効質量の違い、を考慮したものである。なお、前者における共鳴分子ボソン、後者におけるフォトンの効果は無視した。まず、質量差がない場合のフェルミ原子ガスに対し成功を収めてきたガウス揺らぎの理論を質量差がある場合に拡張すると、中間結合領域で転移温度が複数得られてしまうなどの非物理的な結果を出すことを見出した。これは、擬ギャップに伴うフェルミ面近傍の状態密度の減少が過大評価される結果、状態密度が負になることに因るものである。次に、状態密度の正値性が保証されるT行列理論に近似レベルを上げた計算を実施、状況は改善されるものの、一部のパラメータ領域で尚、非物理的な結果が得られた。解析の結果、これは、質量差によるある種の有効磁場に対する帯磁率の正値性がT行列理論では問題となる領域で破れていることに因ることが判明した。以上の研究結果から、状態密度、帯磁率、共に正値性が保証されるようにT行列理論を修正、これを用いて、与えられた相互作用、質量差に対する超流動転移温度を計算するコードの開発を行った。 上述の「修正されたT行列理論」を用いると、スピンインバランスのあるフェルミ原子ガス超流動の分野で以前から指摘されていた「中間結合領域でのクロスオーバー理論の破綻」の問題も解決することを明らかにした。実際、この理論で計算された帯磁率は、フィッティングパラメータなしで、実験結果を定量的に再現できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画目標であった、基礎理論の構築について、共鳴ボソンの効果を取り入れるまでには至らなかったが、対形成に関与する粒子の質量が異なる場合を扱える強結合理論を作り上げることができた。当初考えていたガウス揺らぎの理論やT行列理論のレベルでは、質量差がある系で非物理的な結果を与えることが研究の過程で判明、その分析を行うことで克服方法が解明できた点は重要な成果である。この点を改善した「修正されたT行列理論」により、任意の相互作用強度、質量差での超流動転移温度が計算可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はまず、今年度完成させた「修正されたT行列理論」に基づき、弱結合から強結合にいたる幅広い領域での転移温度を数値的に求める。特に、クーパー対形成に関与する2種類の粒子の質量差の影響を解明すると共に、質量差の効果が励起スペクトルなどの物理量にどう影響するかを研究する。そのうえで、共鳴分子ボソンの効果を同じ近似レベルで取り入れ、共鳴型超流動に適用できる理論の枠組みを構築する。
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