研究領域 | 半導体における動的相関電子系の光科学 |
研究課題/領域番号 |
23104724
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00221812)
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キーワード | 量子ドット / メゾスコピック系 / 量子エレクトロニクス / 電子格子相互作用 / 超放射 / 非平衡輸送現象 |
研究概要 |
本研究の目的は、多数の量子ドットにおけるボソンを介した電子間の量子相関の生成、および超放射に起因する新奇物理現象の理論的究明である。23年度は、2重量子ドットにおける電子と光学フォノンの結合について重点的に研究した。 1. 2重量子ドットの非平衡伝導特性における電子と光学フォノン間の結合の効果を調べた。まず、光学フォノンモードにユニタリー変換をすることで、2つのモードのみが量子ドット中の電子と結合することを示した。電子とフォノン状態に対する密度行列に基づき、電子とフォノンのコヒーレントな結合であるポーラロンの形成、フォノンの放出過程、および電子のトンネルに伴うFrank-Condon効果、等を系統的に扱うことのできる定式化をおこなった。有限バイアス下ての電気伝導を調べたところ、条件によってFrank-Condon効果による電流の抑制、またはレーザーと類似のフォノン放出の増大が観測され得ることがわかった。フォノン・レーサーについては現在論文を執筆中である。本研究はベルリン工科大学のBrandes教授と共同でおこなった。また関連する実験をおこなっている理研の大野、天羽両博士と議論を重ねた。 2. 1と同じ2重量子ドットにおける電子と光学フォノン間の結合の問題に対して、Keldyshグリーン関数法を用いた別の定式化をおこなった。ポーラロン形成による電流のサブピーク構造、コヒーレント結合によるエネルギー準位の反発等、(I)と相補的な情報を得た。 3. 2重量子ドットの並列系を想定し、光学フォノンの放出による量子ドット間の量子相関(エンタングルメントの生成)を理論的に調べた。電圧パルスを用いた時間分解の実験を想定して、量子相関のコヒーレント振動への影響、および超放射機構による電流の増大が観測可能であることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子と光学フォノンの結合を重点的に調べ、当初の目的であるボソンを介した量子相関の出現、および超放射現象の輸送特性による観測を指摘した。さらに、フォノン・レーザーという新奇物理現象を見出し、半導体ナノ構造における「量子光学」の研究を発展させた。一方、キャビティ中の量子ドットにおける多体のポラリトン形成と超放射については研究が滞っているが、フォノンについて我々が開発した方法はその問題にも適用可能である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の予定通り研究を推進する。特に問題点は生じていない。まず、23年度に見出したフォノン・レーザーの研究を発展させる。その観測方法として複数の2重量子ドットを想定し、フォノン・レーザーによる量子相関の生成と超放射現象を明らかにする。次に、我々が開発した計算方法を用いて、キャビティ中の複数の量子ドットにおける超放射の問題に取り組む。
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