研究概要 |
本研究では,NaイオンをもつY型ゼオライト(NaY)を使用した.NaYの細孔は大空洞(直径1.3nm)を12員環からなる窓(直径0.74nm)で連結した構造をとる.重合物のparaformaldehyde((HCHO)n)の熱分解で発生させたHCHOをNaYに吸着させたものをHCHO@NaYと表示する.利用可能な計算機環境の制限から,ゼオライトの周期的な構造からNaイオン周辺骨格のみを切り出し,分子系として扱う10Tクラスターモデルを採用し,計算にはMP/6-31+g(d,p)//B3LYP/6-31G(d,P)を用いた. NaY細孔の大きさからHCHOの重合物として環状三量体のtrioxane((HCHO)_3)が生成可能と考え,3HCHO〓(HCHO)_3の三量化平衡の熱力学的量を,気相とゼオライトへの吸着状態で見積もった.気相中では(HCHO)_3側に有利なエンタルピー項によりΔGは負となり,平衡は三量体側に有利となり,重合が進むことが納得できる.一方,NaYに吸着すると,エントロピー項とNaイオンへの吸着エネルギーを3分子分稼ぐ要因により,ΔGは正となり,単量体側が有利となり,安定に存在する理由が明らかになった. ゼオライト細孔内では,3HCHO〓(HCHO)_3、の化学平衡が左側に偏っていることが計算化学的に証明されたことから,次にゼオライト細孔に環状三量体を吸着して,細孔内で単量化し,そのまま保持することが可能か検討した.固体の(HCHO)_3と乾燥NaY粉末を室温で混ぜて数時間おくと,(HCHO)_3はNaY中に自然に吸着されて(HCHO)_3@NaYが容易に得られた.この試料を,60,93,110℃で3時間加熱し,^<13>C DDMAS NMRでゼオライト中の化学種を同定した.60℃加熱では,(HCHO)_3の炭素(94 ppm)のみであったのに対し,93℃加熱試料中には,203 ppmにHCHOの炭素が少量ながらも観測され,さらに110℃では(HCHO)_3のピークが完全に消失し,単量体にほとんど変換されていることがわかった.なお,このとき少量ながらMeOHとHCOOH(あるいはHCOOMe)の生成も観測された.この実験事実から,吸着状態での量子化学計算によるΔG値が示すように,環状三量体からも単量体を発生,保持する手法を確立できた.
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