研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
23105513
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
平野 雅文 東京農工大学, 大学院・工学研究院, 准教授 (70251585)
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キーワード | 炭素-水素結合の活性化 / メチル基 / 協奏的求電子置換機構 / 酸による加速効果 / 酸会合体 |
研究概要 |
本研究では、メタンの活性化モデルとして遷移金属化合物によるメチル基の活性化反応に関する基礎的知見を得る事を目的としており、申請書には平成23年度の研究計画として、課題1「メチル基活性化反応における水素アクセプターの効果」ならびに課題2「遷移金属の違いに基づいたメチル基活性化反応の理解」の2課題が記載されている。 平成23年度において、課題1についてはオルト位にメチル基を持つ白金(II)錯体の水素受容体の効果を検討し、チオラト基を水素受容体として用いた場合には、メチル基を用いた場合に比べて1万倍以上もsp^3炭素-水素結合の切断反応段階が加速されることを新規に見出し、この著しい加速効果がメチル基の水素が求電子的にイオウの孤立電子対に移動する協奏的反応のためであることをアメリカ化学会Organometallics誌に発表した。また、課題2については、同様の研究をパラジウム(II)およびニッケル(II)錯体についても展開し、それぞれ有機金属化学討論会ならびに日本化学会春季年会に発表を行った。また、アリールオキソ基を持つルテニウム(II)においては、ブレンステッド酸がアリールオキソ基の酸素原子と極めて速い1:1の可逆的酸一塩基会合を行っており、酸素上の2つの孤立電子対が2分子酸と会合した錯体と酸が1:2の会合体になった後にアリールオキソ基のベンジル位の炭素-水素結合が切断される新しいメカニズムを見出した。これは、酸との会合により酸素から金属への電子供与が強く阻害されるため金属中心が求電子的になり、求電子置換型協奏的結合切断反応が進行したためであると考えられ、アメリカ化学会Organometallics誌に発表した。このような酸による加速効果は古くから知られていたがその機構を解明した初めての例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年次計画における課題をすべて実施し、実験化学的アプローチによりsp^3炭素-水素結合切断反応を促進する水素受容体として塩基性の高いチオラト基が優れている事を見出した。また、酸により促進されるsp^3炭素-水素結合切断反応では、その機構を世界に先駆けて解明することができた。これらは、それぞれアメリカ化学会より論文発表できた。このため順調に研究計画が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針については、本年度の研究が順調に進展しているため、研究計画の変更等は行わない。これまでは分子内における炭素-水素結合の詳細な研究を実施してきたが、分子内反応におけるsp^3炭素-水素結合の切断反応に加えて、分子間の結合切断に関する研究を実施する。このため本年度得られた知見に基づいて新たな錯体の分子設計・合成を行う予定である。
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