茶谷らはRu3(CO)12触媒を用いる(pivaloylaminomethyl)pyridineのメチル基C-H結合の活性化によるエチレンおよび水存在下でのレジオ選択的カルボニル化反応を最近報告した。我々は反応機構に興味を持ち、触媒の初期構造としてRuにピリジン窒素、1分子のCO、1分子のエチレンの配位した錯体Aを用いて分子軌道計算による反応の解析を行った(B3LYP/6-31G*(Ru:lanl2dz))。近傍にあるアミドN-H結合へのRuの酸化的付加、エチレンのRu-H結合への挿入の後、近傍にあるC-H結合のRuへの酸化的付加、還元的脱離によるエタンの生成と2つのCOの配位、COのRu-C結合への挿入と空いた配位座へのCOの配位、還元的脱離によるサクシンイミドの生成により生成物が得られると説明される。C-H結合の酸化的付加の活性化エネルギーは24.6 kcalであり、この段階が律速である。茶谷らはD化された基質を用いて同位体効果を調べ(KIE: 3.8)、C-H結合の開裂が律速段階であると結論しており、我々の計算結果と一致する。また、ピバロイル部分のメチル基を1つエチル基に換えた基質でもメチル部分で反応が進行すると報告されているため、律速段階の遷移状態計算を行った所、6個の構造が得られメチルで反応する最も安定な構造はエチルで反応するものより160 ℃、17気圧下2.84 kcal/mol安定で、ボルツマン分布も考えると99.5:0.5の選択性となり実験結果とよく一致した。立体障害が主な要因であると考えられる。なお、反応系中生成する不活性錯体Bは水との反応でCO配位子がCOOHに変わり、同時にアミドのNがプロトン化されルテニウムから脱離することによって活性錯体Aに変化することが分かった。活性化エネルギーは34 kcal/molで、このために160℃の加熱が必要となる。
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