研究実績の概要 |
アミドは,ナイロン,ケブラーなどアミド系高分子,およびアクリルアミド,カプロラクタムなど高分子合成用のモノマーとしても工業的に大量生産可能である.タンパク質やオリゴペプチドとして自然界にも豊富に存在する.しかしながらアミド基はカルボニル基のなかで最も不活性であり,その水素化は速度論的にも熱力学的にも難しいとされてきた.アミドの水素化を実現する配位子には2つの特徴が求められる.第一にかさ高さ,第二に強い結合力である.これら二つの特徴を満たす配位子として(P,N)型二座配位子を選択した.我々は今回,そのような配位子をもつ新しい触媒前駆体Ru錯体を3種類開発した.なかでもRu錯体Cl2Ru(Cy2PCH2Py)2を触媒前駆体として用いることで,一般的な「不活性」アミドの選択的水素化に成功した.本手法は高い基質一般性を示し,1級アミド,2級アミド,3級アミドに有効である.鎖状のより不活性なアミドのみらなず,環状アミドにも適用可能である.反応機構を調べるなかで,触媒誘導段階でCl2Ru(Cy2PCH2Py)2の配位子のピリジン部位が完全に水素化されピペリジンになることも示された.すなわち配位子であるCy2PCH2PyがCyPCH2(piperidine)になったものが実際の触媒活性種に関わっていることを突き止めた.その結果,触媒誘導段階にのみ高温,高H2圧が必要で,実際のアミドの水素化でははより低温・低PH2(120 °C, 2 MPa)で十分であることを発見した.水銀テストによってRuナノパーティクルの触媒としての作用もほぼ無視できるため,H-Ru-N-H構造の構築に基づく「新触媒活性種」の二官能性機構を支持する有力な 情報を得たといえる.
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