研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
23105519
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
伊津野 真一 豊橋技術科学大学, 大学院・工学研究科, 教授 (50158755)
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キーワード | 有機分子触媒 / 高分子触媒 / 第四級アンモニウム塩 / 高分子組込み型触媒 / イオン結合型高分子 / スルホン酸アンモニウム |
研究概要 |
有機分子触媒は環境調和型触媒としてその重要視が認識されている。不斉合成においてもキラル有機分子触媒の開発が進められており、高活性を示す不斉有機分子触媒が得られるようになった。しかしながら、遷移金属触媒に比べると必要とされる触媒量はかなり多く、触媒回転数についてはある程度の限界も示されている。特に第四級アンモニウム塩型不斉触媒は、両親媒性を示し、反応終了後の反応系からの分離に支障をきたすことも多い。このような第四級アンモニウム塩型不斉有機分子触媒を高分子に組込むことにより、触媒の分離、回収は容易になり、再使用も可能である。また、高分子触媒によって構築される不斉反応場は触媒活性、選択性に大きく影響を与えることから、その分子設計は重要な課題である。本研究では、キラル第四級アンモニウム塩を高分子構造に組込む方法として、新しい重合法を開発し、得られたキラル高分子有機分子触媒による不斉反応によりそれらの触媒活性を評価した。 第3級ジアミンとジハライドを加熱すると4級化反応により高分子が生成する。この重合反応は古くから知られているが光学活性高分子合成に用いられた例は報告されていない。本研究では、シンコニジンから誘導したキラル第3級ジアミンとジハライドからキラル第4級アンモニウム塩を主鎖に組込んだ高分子の合成に成功した。 我々は第4級アンモニウムスルホン酸塩が安定な塩であり、高分子スルホン酸にキラル第4級アンモニウム塩を固定化できることを見出している。この固定化に用いた反応を第4級アンモニウムハライドの2量体とジスルホン酸Naとの間で行うと、分子間イオン交換反応によるイオン結合型高分子を生成することができる。これまでに無い新しいキラル高分子の合成法であり、室温、無触媒、短時間で容易に高分子量のキラル高分子を合成できた。これらのキラル高分子は不斉反応の触媒として高活性を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高分子主鎖組込み型有機分子触媒は、これまでに例のない高分子触媒であるが、本研究により、新しい重合法を開発し、高分子不斉触媒を合成することに成功した。これら高分子触媒の触媒活性は、対応する低分子の不斉触媒に比べても全く遜色のない性能を示すだけでなく、高分子主鎖構造のデザインによっては、低分子触媒を上回る選択性を示すことが分かった。この点では当初の計画以上の進展があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
高分子主鎖に触媒を組み込んだ高分子不斉触媒の合成法を開発できたが、分子量および分子量分布の制御については今後の課題の一つとして検討する必要がある。さらに架橋構造を導入することによって高分子触媒の安定性をより高める工夫についても検討する。特に触媒の再使用または連続的フローシステムでの使用において架橋高分子の利用が期待できる。ただし架橋高分子は一般に触媒サイトの反応性を落とすことが多いため架橋構造について詳細に検討する必要がある。
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