研究概要 |
ハロゲン化アリールのようなsp2-炭素求電子剤はSN1反応やSN2反応を起こせないので,これらを置擁反応に用いるには,反応の収支としては酸化も還元も起こっていない場合にも,低原子価遷移金属などによって還元することで活性化する必要がある.特にアリールメタルとのカップリング反応によるビアリール合成には,パラジウムなどの遷移金属触媒の利用が必要不可欠となっている.ハロゲン化アリールを1電子還元によって活性化することも可能で,これを置換反応に利用した例としてSRN1反応がよく知られているが,アリールメタルなどのsp2-炭素求核剤との反応に応用した例はなかった.今回,ヨウ化アリールとアリールGrignard反応剤の間のクロスカップリング反応がSRN1機構と類似の機構で遷移金属触媒を用いることなく進行することを明らかにした.この方法を用いれば,様々なビアリールが概ね90%以上の高収率で得られる。 また,これとは別のビアリール合成法として,入手容易なアリールボロン酸をアリール源とする,宮能基選択性の高い反応の開発にも成功した.鉄触媒およびtert-ブチルペルオキシド存在下,アリールボロン酸とアレーンの酸化的カップリング反応が進行し,種々のビアリールが得られる.3価の鉄錯体とtert-ブチルペルオキシドから生じたtert-ブトキシラジカルがアリールボロン酸を電子酸化することで生じるアリールラジカル中間体を経由して反応が進行することも明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
遷移金属触媒を用いないハロゲン化アリルのクロスカップリング反応は,アリールGrignard反応剤以外の有機金属化合物との反応に適用範囲を拡大していく計画である.予備的な検討で,既にかなりめ程度まで拡げられる見通しが立っている.今後は反応機構を明らかにしていき,その知見を基に,さらに効率のよい反応系の開発や適用範囲の拡大に繋げていく予定である.アリールボロン酸の電子酸化によってアリールラジカルを得る手法についても,鉄触媒だけでなく,同様に安価で入手容易な銅などを触媒とする反応系を検討していくことを計画している.
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