研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
23105526
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
南方 聖司 大阪大学, 大学院・工学研究科, 教授 (90273599)
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キーワード | 無機多孔体 / γ-シクロデキストリン / フラーレン(C_<60>) / 内包 / 包接 / 空間的制御 / 表面制御 |
研究概要 |
本研究では、活性化する分子としてフラーレン(C_<60>)に着目し、その化学修飾の際に生じる問題点を解決するために、無機多孔体による空間的制御および有機ホストによる表面制御について検討した。フラーレンが難溶であるヘキサン中でフラーレンとシクロペンタジエン(2当量)を室温で6時間撹拌したところ、反応はほとんど進行しなかった。また、フラーレンが可溶なトルエン中で同様の条件下で撹拌した場合は、Diels-Alder付加体が収率36%、選択率(反応により消費されたフラーレンを基準とした収率)40%で得られた。しかし、MCM-41に内包したフラーレンとシクロペンタジエンをヘキサン中で撹拌したところ、Diels-Alder反応が進行し、収率58%、選択率98%という高い選択率で付加体が得られた。フラーレンをMCM-41に内包せずに、MCM-41存在下、フラーレンそのものをヘキサン中で撹拌するとモノ付加体が収率48%、選択率96%で得られた。これは疎溶媒性効果によりシリカ内部にフラーレンが分散され、細孔内で反応が生起したことを示唆している。以上の結果は、既に論文として発表した。また、他の反応媒体として、γ-シクロデキストリンを活用したフラーレンの化学修飾を検討した。我々はTBDMS基で化学修飾したシクロデキストリン(TBDMSγCD)にフラーレンを包接させ、2:1(TBDMSγCD:C_<60>)の複合体が調製できることを見出した。この複合体は、フラーレンが難溶である酢酸エチル、クロロホルム、飽和アルカンに可溶であること、さらに、シリカを作用させることにより、容易に分解可能であることも判った。オクタン中で、フラーレンそのものとシクロヘキサジエンを90度で12時間撹拌したところ、収率8%、選択率36%でDiels-Alder反応が進行した。しかし、C_<60>/TBDMSγCD複合体を活用し、同様の条件で撹拌したところ、効率よく反応が進行し、収率48%、選択率89%という高い選択率でモノ付加体が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに、無機多孔体中でのフラーレン分子の反応性を明らかにし、特異な微小空間内での選択的な反応を実証することができた。また、新たな反応媒体として、有機溶媒に可溶なシクロデキストリンがフラーレンと複合体を形成することを見出し、シクロデキストリンがフラーレンの表面を遮蔽し、反応の選択性を誘起できることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
現時点での予備的実験結果として、フラーレン以外の有機分子も無機多孔体に内包できることを見出しつつある。この内包できた分子に対する化学反応として、特異な微小空間ならではの新奇な反応の開拓に挑む。さらに、本研究の遂行中で見出した有機溶媒に可溶なγ-シクロデキストリンとフラーレンとの複合体が、特異な反応性を示すことを受けて、その複合体の生成機構の解明を目指す。この複合体の生成に関しては、シクロデキストリンの分野では、非常に特異的であり、興味深い知見であることから学術的にも意義があると考えられる。このように無機多孔体のみならず、新たな反応場の開拓は有機合成化学においても重要な課題であることから、シクロデキストリン複合体の化学についても研究を精力的に進展させる。
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