無機多孔体による空間制御として、初年度はフラーレンに対して共役ジエンとの選択的なDiels-Alder反応が進行することを見出し、無機多孔体があたかも固体溶媒として作用する糸口を明らかにした。今年度は規則正しい細孔を有したハニカム構造のメソポーラス多孔体であるMCM-41の内部表面修飾を目的とした。その結果、固体溶媒として活用することが、その表面極性や形状をコントロールすることによって実現できた。また、内包したフラーレンを一次元的に重合(オリゴメリ化)することにも成功した。細孔径とフラーレンの直径から考えて、メソポーラスシリカに内包されているフラーレンは一次元的に分散している。これを、光化学的あるいは放射線化学的にオリゴメリ化させて、これまでに創製されていないフラーレンの直線的ポリマーの合成を検討したところ、難溶性の黒色個体を得ることができ、その物性については現在検討中である。メソポーラスシリカの表面は未修飾の状態ではヒドロキシ基が存在し、これは有機溶媒でたとえるとアルコールと同等である。NaBH4などの還元剤で、一旦フラーレンを水素化し、発生した水素化フラーレンを還元触媒としケトンや炭素―炭素不飽和結合の水素化に活用することができた。 今年度は、γ-シクロデキストリン2分子が1分子のフラーレンと包接した複合体が種々の汎用性の有機溶媒に可溶であることを活用し、フラーレンに対して位置選択的な化学反応を見出すことができた。また、この複合体形成挙動の機構解明を熱力学的測定や、速度論的な検討から明らかにすることができた。疎水性反発を駆動力としているが、我々が見出した有機溶媒に可溶なシクロデキストリンとフラーレンの複合体形成は両者が十分に溶解する溶媒中で生起している。この挙動の解明は、フラーレンのみならず様々な有機分子の新たな複合体形成および反応場開拓に貢献できた。
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