公募研究
本研究では、有機金属錯体が媒介する反応においてタンパク質固有の性質、反応場環境(L-アミノ酸からなるキラル環境、ヘリックス構造)を生かした物質変換システムを構築することを目指している。23年度は、自然界に存在する酵素にはないタイプの反応を媒介する人工酵素の構築を行った。具体的には、α-キモトリプシン(加水分解酵素)中にホベイダ-グラブス錯体を導入し、構築したタンパク質の精製法の確立、吸収スペクトル、CDスペクトルによる溶液構造の検討、ジオレフィン基質の閉環メタセシス反応の観測を行った。錯体を導入する方策として、α-キモトリプシン固有の阻害機構を利用し、ホベイダ-グラプス錯体をタンパク質の割れ目構造部分に位置選択的に導入するために、L-もしくはD-フェニルアラニルクロロメチルケトンとホベイダ-グラブス錯体とをスクシニルリンカーを介して結合させたセリンプロテアーゼ阻害剤を合成し、α-キモトリプシンに作用させた。その結果、L-体の阻害剤を作用させた場合のみ、α-キモトリプシン本来の加水分解活性は消失した。また、ESI-MSおよびMALDI-MSにより、阻害剤1分子のみが共有結合的にタンパク質に結合していることが明らかとなった。以上のことから、当初の計画通り、素材タンパク質の本来の性質により人工酵素が構築されたことが示された。また、構築した酵素によるジオレフィン基質の閉環メタセシス反応においては、カチオン性あるいは疎水性の基質よりも、グルコース部位を有するが最も高い活性を示すことが分かった。このような基質間での活性の違いは、タンパク質に取り込まれていない錯体による触媒反応よりも顕著に表れており、以上のことから、タンパク質の表面電荷状態により、触媒活性の制御を簡便に行えることが示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、タンパク質固有の性質を利用して、有機金属錯体を有するタンパク質の構築に成功した。
今年度の研究で用いた阻害剤中のホベイダ-グラブス錯体部位は、溶液中における吸収スペクトルおよびCDスペクトルより、中心金属周辺の配位構造は保たれており、錯体部位がタンパク質中に導入されていることが示唆されたが、タンパク質のどの部分に位置しているのかを詳結晶構造解析等により詳細に解析したい。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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http://mswebs.naist.jp/LABs/hirota/tmatsuo/matsuo_jpn.html