研究概要 |
(1)o-ジメシチルボリル(ヒドロシリル)ベンゼン1(ヒドロシリル基=SiPh_2H; SiPhH_2; SiMe_2H; SiMeH_2)の反応を検討した。ジメチルシリル体とベンズアルデヒドとの反応をトルエン還流下でおこなったところ,予想したヒドロシリル化体は得られず,ヒドロボリル化体が収率74%で得られた。この結果は,トルエン還流下でケイ素原子上の水素原子とホウ素原子上のMes基との交換が起こり,ヒドロボランが反応性中間体として生成したことを示している。そこでヒドロボラン中間体の生成機構を明らかにすべく,Mes基をPh基に置き換えたモデル分子を用いて量子化学計算(MP2/6-31G(d)//B3LYP/6-31G(d))による遷移状態探索をおこなった。その結果,立体配座の違いによる2つの遷移状態が見つかった。隣接ホウ素原子によるケイ素原子上の水素原子の引き抜きによって遷移状態へと至る。遷移状態においてはケイ素原子はシリルカチオン構造を,ホウ素原子はヒドロボレート構造をとっている。さらに両原子を水素原子とPh基が架橋した構造をとっており,H-Ph交換反応が協奏的に進行することを示している。 (2)フェニルシリル体をトルエン還流下で加熱すると分子内環化反応が進行し,ジベンゾシラボリンが収率72%で得られた。ジフェニルシリル体からは対応するジベンゾシラボリンが収率51%で生成した。この反応では,H-Mes交換反応によって生成したヒドロボラン中間体において,ヒドロボラン部位(B-H)とケイ素原子上のフェニル基(C-H)とが四員環遷移状態を形成し,脱水素化とB-C結合形成が協奏的に進行したものと考えられる。 一連の反応は結果として,Si-H結合をより反応性の高いB-H結合へと変換し,これを用いてC-H結合を活性化することで,ベンゼン環へのホウ素原子の導入を達成したことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,ヒドロシリル基とジメシチルボリル基をオルトフェニレン骨格で連結したo-ジメシチルボリル(ヒドロシリル)ベンゼン1とカルボニル化合物との反応において,(1)分子内H-Mes交換反応によって1からヒドロボラン中間体が生成すること,(2)このヒドロボラン中間体から分子内B-H/C-H脱水素化が進行しジベンゾシラボリンが生成することを見出した。また,H-Mes交換反応の反応機構を量子化学計算により明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ホウ素置換芳香族化合物のオルトメタル化反応の高効率化を図るために,新規窒素配位子の探索,(TMP)_2Mgに代わる塩基の探索,中間体の単離とNMR測定およびX線結晶構造解析による精密構造解析,量子化学計算による反応機構の解明,をおこなう。
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