研究概要 |
本研究では、様々なカルボニル化合物の触媒的酸化反応と共役付加との連続反応を行うことで、カルボニル化合物の新規分子変換を開発することを目的としている。特に、カルボニル化合物のδ位において結合形成するような反応はこれまでに知られておらず、そのような反応の開発を目指している。一般的にα,β,γ,δ-不飽和カルボニル化合物へ求核剤が1,6-付加することによりδ位に官能基を導入することができるが、α,β,γ,δ-不飽和カルボニル化合物は通常入手容易ではない。そこで、本年度はβ,γ不飽和ケトンを出発原料とし、触媒的酸化/1,6-付加を組み合わせることで、カルボニル化合物のδ位において結合形成する手法について詳細に検討した。その結果、β,γ-不飽和ケトンと二級アミンについて、トリメチルボスフィン-パラジウム触媒存在下、アリル炭酸メチルを共存させ、100℃で反応させた時、目的の反応が効率よく進行し、δ位でアミノ化されたα,β,γ,δ-不飽和ケトンを収率79%で与えた。この反応に関するNMR実験を行うことで、この反応は、予想通りβ,γ-不飽和ケトンの酸化によりα,β,γ,δ-不飽和ケトンを経て進行していることを明らかとした。このδ位アミノ化反応は、β,γ-不飽和ケトンに限定されず、適切な塩基を選ぶことでβ,γ-不飽和エステルやβ,γ-不飽和ニトリルにも適用可能であることがわかった。また、次年度には、ここで得られた知見を基にして飽和なカルボニル化合物の触媒的な二重酸化/1,6-付加/再酸化を経ることで、さらに入手容易なカルボニル化合物のδ位アミノ化反応を開発することを計画していた。今回開発した反応条件下、その反応開発を行ったところ、収率30%程度ではあるが目的生成物が得られることも明らかとなった。この反応は、飽和なケトンの二重酸化によるα,β,γ,δ-不飽和ケトンの生成を経て進行していると考えられ、従来までに知られていない革新的な反応開発に繋がると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた研究結果を基に、更なるδ位結合形成反応を開発する。特に、飽和なカルボニル化合物の脱水素/1,6-付加/再酸化を経る反応を開発する。これは、当初の研究計画の通りであるが、上述のように当初の研究計画よりも早く達成できると考えている。そこで、これらの反応開発から得られる知見を基にして、飽和なカルボニル化合物の二重酸化により、α,β,γ,δ-不飽和カルボニル化合物を与えるような反応を開発したい。これは、一見単純な分子変換であるように見えるが、これまでに全く達成されたこの無い分子変換であり、有機合成化学においても極めて魅力的である。
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