研究実績の概要 |
遷移金属錯体を用いた単純アレーンやアルカンのC-H結合などに代表される不活性な結合の直接的官能基化の開発は、究極的な直截的物質変換を可能とするため、現在最も注目される課題である。本研究課題では、有機ケイ素配位子が金属中心に強く電子供与し、かつ配位的に不飽和な錯体を効果的に安定化するという性質に注目し、キレート型ケイ素配位子を持つ高反応性鉄錯体の構築と、C-H結合をはじめとする不活性結合活性化への展開を行っている。本年度も前年度から引き続き、安定・強固な錯体骨格を与える1,2-bis(dimethylsilyl)benzeneをキレート型ケイ素配位子として用い、これを有する反応性鉄錯体の構築と、areneのC-H結合活性化を伴う変換反応への応用を行った。種々検討した結果、鉄-ジカルボニル錯体Fe(CO)2(Me2SiC6H4SiMe2)(Me2Si(H)C6H4Si(H)Me2)を合成し、この錯体の反応性について検討した所、この錯体において、2つのeta2-型で鉄へ配位したSi-H基は鉄中心から容易に解離することが示唆された。すなわちこの錯体は、容易に配位不飽和な14電子中間体を発生しうる錯体であるとみなすことができる。そこで次に、配向基を持つareneである1-phenylpyrazoleもしくは2-phenylpyridineとの反応をnorborneneもしくはcyclopentene存在下で行ったところ、いずれの場合もareneのC-H結合活性化を伴うアルキル化が進行した。鉄と同族のルテニウムのカルボニル錯体によるareneのC-H結合活性化・官能基化はよく知られているが、本反応は鉄カルボニル錯体による初の例である。
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