研究概要 |
遷移金属錯体上で内部アルキンが炭素二置換ビニリデンへの転位については、少数のアシルアルキンの転位が報告されているのみで一般性についての検討は行なわれてこなかった。二置換ビニリデン錯体はアルキニル錯体の求電子的C-アルキル化にほぼ限られてきたため種々の置換基を導入することが困難で、錯体レベルでも未開拓であるのが現状である。末端アルキンからのビニリデン転位が有機合成反応に広く応用されていることを考えると、二置換ビニリデン錯体をより直載的かつ自在に調製する方法の開発が必要なことは明らかである。そこで本年度は、CpRu錯体におけるジホスフィン配位子のキレート環サイズに着目し、検討を行った。 本反応におけるジホスフィン配位子の効果を調べたところ、DPPP,DPPB,DPPF配位子を持つカチオン性のCpRu錯体上でMeOC_6H_4C≡CPhは容易に対応するビニリデン配位子へと変換された。 一方、キレート環が小さいdppm配位子を持つCpRu錯体[CpRu(dppm)]^+を用いた場合には、予想に反してビニリデン錯体は得られず、最終生成物として(アルケニルホスホニオ)フェニル錯体[CpRu{Ph_2PCH_2P(C_6H_4)Ph(η^2-CPh=CHPh)}][BAr^F_4]が生成した。反応を^<31>P{^1H}NMRにより追跡したところ、一旦対応するビニリデン錯体が形成され、その後(アルケニルホスホニオ)フェニル錯体へと完全に変換されることがわかった。ビニリデンα炭素へのdppmの求核攻撃が進行した場合、1,1-ジフェニルエテニル基を持つ錯体が生成するが、本反応ではそのような錯体は得られていない。したがって、ビニリデン錯体はアルキン錯体を平衡的に生成し、dppmの配位アルキン炭素への求核攻撃、オルトメタル化-還元的脱離により(アルケニルホスホニオ)フェニル錯体が生成すると考えられる。
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