研究領域 | 素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明 |
研究課題/領域番号 |
23105704
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 勝一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教 (60332590)
|
キーワード | 量子色力学 / 格子ゲージ理論 / フレーバー対称性の破れ / ハドロン物理 / ハイペロン構造 |
研究概要 |
ハイペロンβ崩壊は現象論的に「カビボ-小林-益川(CKM)行列のユニタリティの問題」や「陽子スピン問題」と関連して重要であるにも関わらず、ハイペロンβ崩壊におけるフレーバーSU(3)の破れの構造が理論的不定性なく理解されているとは言い難い。本研究ではその破れの構造を明らかにするために、これまでのクォークの動的効果を完全に無視したクェンチ近似計算を越えて、より現実的なフレーバーSU(3)の破れ査厳密に取り入れた2+1フレーバーの動的格子QCD計算を行なった。すでに研究代表者らによって核子の構造についてその研究が完了している、RBC+UKQCD collaborationsにより国内外の研究者に対して無償公開されているDomain Wall Fermion形式による2+1フレーバーQCDゲージ配位(格子間隔0.11fmで物理的格子サイズ約3fmに相当)上での数値解析を行なった。 当該年度は、CKM行列要素のユニタリティの検証に関係して、ハイペロンβ崩壊のベクトルカレントの形状因子、Dirac形状因子f_1(q^2)におけるフレーバーSU(3)の破れの効果に的を絞って研究を行なった。アップ・ダウンクォークに対して4種類の質量に対して公開されているQCDゲージ配位のうち、現実のアップ・ダウンクォーク質量により近い3つの質量(π中間子質量で330,430,560MeV相当)のQCDゲージ配位上でのシミュレーションが完了した。これまでのクェンチ近似格子QCD計算と同様に、フレーバーSU(3)対称性の破れの増大によってベクトル結合f_1(0)の大きさがSU(3)対称性が厳密に成り立つ場合に比べ、相対的に減少していることが明らかとなった。この傾向は重いバリオンを含んだ拡張されたカイラル摂動論やラージNc極限による解析とは逆の傾向を示している。現実的な格子QCD計算による「模型に依らない理論的評価」は、カイラル摂動論やラージNc極限による解析の正当性に疑問を呈することとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度で予定していた2+1フレーバーの動的格子QCD数値計算が順調に完了し、これまでのクェンチ近似における格子QCD計算と矛盾しない結果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として2つあり、これまで同じ格子間隔(0.11fm)のQCDゲージ配位上でハイペロンβ崩壊の軸性ベクトルカレントに関する形状因子について研究を行い「陽子スピン問題」に関する研究に発展させる方向と、より細かい格子間隔(具体的には0.07fm)のQCDゲージ配位を利用して、これまでのハイペロンβ崩壊のベクトルカレントのDirac形状因子に対する2つの系統誤差(連続極限とカイラル極限)に関する評価を行い、平成23年度までに得られた計算結果をより精密化させる方向がある。この2つの方向を同時に行なうためには、より多くの計算資源が必要となるため、平成24年度にKEKの計算科学センターに新システムとして導入されるIBM BlueGene/Qの利用を視野に入れ、既存のコードの移植も早急に行なう必要がある。
|