研究領域 | 素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明 |
研究課題/領域番号 |
23105708
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山崎 剛 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 特任助教 (00511437)
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キーワード | 素粒子論 |
研究概要 |
原子核は核子(陽子と中性子)束縛状態であり、強い相互作用により束縛されている。しかし、クォークとグルーオンで記述された、強い相互作用の第一原理、量子色力学から原子核が構成されるかを理論的に検証する事は非常に難しい。この問題の大きな原因は、強い相互作用の閉じ込めの性質のため、解析的な摂動論計算が非常に難いためである。そのため、第一原理から原子核を計算するには非摂動論的計算方法が必要である。本研究では、数値的に非摂動論計算が可能な格子量子色力学を用いて、原子数が小さな原子核に注目し、第一原理計算により原子核が構成されるかを検証する事を目的とした研究を行っている。 これまでに、ヘリウム原子核よりも原子数が小さな原子核についての試験的研究を行い、クォーク質量が非常に重い領域(パイ中間子質量700MeV)ではこれらの原子核が強い相互作用で形成されている事を示唆する結果を得た。これらの研究成果は学術雑誌フィジカルレビューDに掲載された。 当該年度の研究では、特にクォーク真空偏極効果を取り入れた、以前の計算よりも軽いクォーク質量(パイ中間子質量500MeV)での計算を行う事で、これまでの計算に含まれていた主要な系統誤差を取り除き、より信頼性の高い計算から原子核が形成されるかを検証した。その結果、以前の結果と同様に、原子数の小さな原子核はこのクォーク質量で強い相互作用により形成される事を示唆する結論を得た。この成果を論文としてまとめ、フィジカルレビューDへ投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの試験的研究よりも系統誤差を小さくした計算は順調に進んでおり、中間報告としての論文を近日中にまとめ、学術雑誌へ投稿予定である。もう一つの研究目的であるヘリウム原子核より大きな原子数の計算方法の開発については、問題点の分析はほぼ終了しており、現在、その解決方法を模索している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている計算よりも、さらにクォーク質量を小さくし(パイ中間子質量300MeV)、現実世界により近いパラメータでの計算を計画している。これまでの計算では束縛エネルギーに対し有意なクォーク質量依存性が見えていないが、この計算にクォーク質量依存性が明確になり、さらに結果が実験値に近づく傾向を示す結果が得られれば、量子色力学を用いて原子核を直接理解するという目標に、さらに近づくはずである。また、原子数の大きな原子核の計算方法の開発で問題となっている膨大なクォーク縮約の計算方法については、ヘリウム原子核計算の方法を発展させる事で解決する方針を考えている。
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