素粒子クォークとグルーオンを記述する量子色力学(QCD)は強い相互作用をしており、そのふるまいを定量的に解析するのが難しい理論である。近年の格子ゲージ理論による数値シミュレーションの進展で、第一原理からのQCDの解析が進んでいるものの、「カイラル対称性」というクォークの持つ重要な性質を扱えるようになったのはここ数年のことである。特に、カイラル対称な理論の扱いは大きな計算コストを要求し、その代償としてシミュレーションの体積を小さくせざるを得ない。 従って、格子QCDの結果から真の物理量を抽出するには、体積が有限であることの補正が必要になる。本研究はパイ中間子有効理論(カイラル摂動論)の解析とカイラル対称な格子QCDシミュレーションを組み合わせて、有限体積効果を精密に補正し、物理量を精確に理論計算することを目標に進めてきた。 本年度は、パイ中間子の3点関数に的を絞り、共同研究者の大阪大学大学院生の鈴木貴志氏とカイラル摂動論の計算を進めた。その結果、運動量を注入した形で、さらに異なる運動量を持つ演算子の比をとることで、有限体積効果の大部分を自動的に消去できるということを見いだした。また、JLQCD共同研究の一員として進めてきた格子QCDの結果もこのカイラル摂動論の結果をよく再現し、そこからえられた電磁半径は実験値をよく再現するものであった。 当初の計画から若干の遅れは否定できないものの、私たちの見いだした手法は一般のハドロンの形状因子に応用可能であり、今後もさらなる進展が期待できるものとなった。
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