研究概要 |
黒潮/親潮混乱水域(以下,混乱水域)では,冬季に膨大な熱(海面乱流熱フラックス)が,海面を通して海洋から大気に供給されている.そこで,本年度は,観測資料を用い,その要因解明を目指した.簡単な数値実験を行った結果,海面からの熱放出量の経年変動は,海面水温に強く依存していることがわかった.すなわち,海面水温が高い時期ほど,膨大な熱を大気に供給していた.既存の研究では,大気に熱が奪われることで,海面水温が低下すると考えられており,本研究課題で得られた解釈はこれとは異なっている.すなわち,これまでにない新しい大気海洋系を提案することに成功したといえる.次に,時間・空間解像度に優れた衛星観測資料を活用することで,混乱水域での海面水温変動要因を調べた.その結果,黒潮続流から切離した暖水渦(直径200km程度)が主因であることがわかった.得られた研究成果は,Journal of Climate誌に掲載された. 上記研究により,混乱水域の大気海洋系の理解には,黒潮続流の流路形態(安定流路・不安定流路)が重要であることがわかった.そこで,黒潮続流流路形態の理解を目指した.人工衛星観測による海面高度計データを用いた結果,黒潮続流の上流に位置する黒潮の流路こそが重要であることがわかった.すなわち,黒潮が非大蛇行離岸流路をとる時期に,黒潮続流は不安定流路形態をとっていた.このような黒潮続流流路変動がもたらされる要因として,伊豆小笠原海嶺の地形性効果を指摘するに至った.また,伊豆小笠原海嶺通過後の黒潮続流特性(海流)に着目した結果,黒潮続流が不安定流路形態となる時期は,その海面流速が遅く,角度も不安定であることがわかった.これは,流路方程式の観点で理論的に妥当な結論であることを確認した.上記研究成果は,Journal of Oceanography誌に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は,黒潮親潮混乱水域での熱交換関係を調べる予定でいたが,その要因が黒潮続流から切離した暖水塊にあると見出すことに成功した.さらに,その暖水塊分布は,より大局的な場,すなわち黒潮の流路形態を反映していることがわかった.これは,日本南方を流れる黒潮流路を監視することで,黒潮親潮混乱水域での熱放出量の予測可能性を示す大きな成果である.それゆえに,本年度は,当初の計画以上に研究が進展したと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は,海洋変動に着目し,研究活動を展開した.そこで,平成24年度は,海洋が大気を強制するか否かを検証する.具体的には,黒潮親潮混乱水域からの熱放出量期(増大期・減少期)に応じた合成図解析を行うことで,大気場の応答傾向を検討する.また,エネルギー収支解析を併用することで,得られた解釈の妥当性を証明する.そして,得られた成果を総合的に解釈することで,北太平洋中緯度帯での大気海洋系のシナリオ構築を目指す.
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